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REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

Mov.14 72時間を超えて(5)

「ここからだと、テント村の様子がよく見えますでしょう」

「ああ……そうだね」

 

 左隣に立つ後藤に目で示された新田は、西の砂漠から流れ込む空気で乾いた右手を黒スラックスのポケットにそろっと入れ、自分たちが立っている大遺構――ぐねっとゆがんだ巨石が無秩序にがちゃがちゃ地面から顔をのぞかせ、大石がだらしなくごろごろしている場――から薄曇りでくすんだ雑多な色の広がりを重たげに眺めた。並び立つ2人の右斜め後ろ――5,6歩離れたところにはエリーがぽつんと立ち、小さな口をきゅっと結びながら新田、そして後藤の背を見ている。昨夜、精根尽き果てていた新田を心配してテントを訪ねたエリーは後藤に連れて行かれるところに出くわし、そのまま金魚の糞となってくっ付いて来たのだった。

 

「各人がセレクトしたテントの色や位置関係から、様々な心理が読み取れます」

 

 後藤はメガネレンズ越しに暗色の割合が多いワントーンやツートーン・カラーのテントがほどほどの間隔を空けて、あるいは周りから少し離れて固まっている様を観察しながら続けた。

 

「――うつ病などの精神疾患につながりかねない気分の落ち込み、異ルーツ間の軋轢あつれき……何も手を打たなければ、この状態はさらに悪化して乱れていくでしょう。ですから、そうした課題を解決するための仕組み――皆が安心して暮らせるコミュニティを作らなければなりません」

「……まだ、救助が来る見込みは無いんだよな……」

「リアルTVを確認する限りでは、捜査に進展は見られていないようです」

 

 いささか冷静過ぎる声の波紋に、新田は少し眉をひそめた。整い過ぎた感のある美貌や黒いシャープなメタルフレームが縁取る目といい、白のドレスシャツにチャコールのテーラードジャケット、ピチッとした黒のスキニーパンツにレザーのショートブーツというファッションといい、どことなく孤高さを感じさせるソリッドな雰囲気が、新田は正直あまり好きにはなれなかった。

 

「……で、コミュニティを設立するために、まずリーダーを決める選挙をやろうって言うのか?」

「そうです。一昨日の集会のとき、テラ・イセク戦を乗り越えることができたらあらためてリーダーを選ぼうと新田さんも口になさいましたね」

「ああ、確かに、ね……」

「今選挙を行えば、新田さんが選ばれるのは間違いありません。私たちが今こうしていられるのは、新田さんの活躍によるところが大きいのですから」

「生き延びるためにがむしゃらだったんだよ。しかし……本当に俺がふさわしいのかな……?」

「大きな山を乗り越えて気が抜けましたか? その向こうに広がる荒野を見て心がくじけましたか? もうご家族が待つリアルに戻りたい気持ちは無くなったのですか?」

「バカな……!」新田はポケットから右手を抜き、こぶしを作った。「俺は、必ずリアルに戻るつもりだ! その気持ちは変わっていない!」

「そうですか……」

 

 後藤は振り返り、影薄く立っているエリーにメガネのレンズを冷ややかに光らせた。

 

「葉さん、あなたは誰がリーダーにふさわしいと思いますか?」

「えっ?……その、わ、わたしは……あの、に、に、新田さんなら、みんなをまとめられると思います……」

 

 どもりながら答え、まだ小学生に見える少女はうつむいてもじもじした。そんな姿に新田は目を和らげ、近寄って地味な黒髪ボブヘアに右手を伸ばした。

 

「ありがとう。エリーちゃんだって、お父さんやお母さんのところに帰りたいもんな……」

 

 緊張した頭を半ばぼんやり撫でていた新田は後藤に呼ばれて顔を向け、テントの間を通って接近する黒ずくめの一団に気付いていぶかしげにそちらへ向き直った。物々しい雰囲気におびえて新田の陰に隠れるエリー。膝下の長さのマントの裾を揺らす青年将校然とした十数人――その先頭にはひと際厳しい気を放つ佐伯がおり、彼等は大遺構に足を踏み入れてひずんだ巨石を黒革ブーツで踏み、転がる大石を避けながら近付いて、新田の前で足を止めた。