読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

Mov.14 72時間を超えて(4)

「あ、ゴメン、高峰さん。あたしたちの声、うるさかったかな?――……斯波、固まってるけど、どうかしたの?」

「あっ? い、いや、別に……――お、おはよう、高峰さん」

「ルルりんでいいよぉ、ユッキー」

 

 立ち上がったルルフはパープルカラーのジャージ姿をしなやかに伸ばしてGカップクラスの胸を強調し、ツインテールを指でサラサラすいてゴールドの艶を躍らせてからあでやかに微笑みかけた。それにはとりわけ男の心をとろかす熱があり、やられたユキトは見とれてほうっと唇を緩めた。

 

「……『ユッキー』って……」潤が、ユキトの横で細い眉をいびつに曲げる。「何なの、それ?」

「ルルがつけたニックネームよん。カワイイでしょ?」

「変なもの勝手に付けないでよ。――そうでしょ、ユキト?」

「あ、う、うん、いや、その」

「だーって――」

 

 ルルフは小型テントの間を通ってユキトのそばに出、戸惑い気味の紗季を一瞥してから不機嫌な潤を逆撫でするように頭をユキト側に傾けた。

 

「ユッキーは〈ルルりんキングダム〉のメンバーだもん。メンバーには、キュートなニックネームつけてあげるんだ~」

「え? ルル――何?」

「ル・ル・り・ん・キ・ン・グ・ダ・ム。ルルのコミュニティ――つまりファンクラブね」

 

 不可解な顔の潤にルルフは強調して繰り返し、メインメニューに表示されている項目の一つ〈リレーション〉からコミュニティ設立ができると、強制転送直後にワンから色々説明を受ける中で聞いたことをそのまましゃべった。

 

「――コミュニティを設立すると、専用サイトができるの。好きなようにデザインできるんだよ。ほら、見て、見て」

 

 メルヘンチックな城のデザインのウインドウがユキトたちの方を向いてパッと出現し、ルルりんキングダムというタイトルに続いて愛嬌や色気を振りまくルルフのムービーが流れ、〈インフォメーション〉や〈プロフィール〉、〈メンバー登録〉等の項目が並んだ。

 

「ハイパーに素敵でしょー! ルルとジョビーとで作ったんだよ!」

「そんなことどうでもいいわ。それより、いつユキトがそんなコミュニティに入ったの?――ユキト、入った覚え、ある?」

「い、いや、僕は何も……」

「これから入ってくれるのよ。ジョビーもユッキーは入ってくれるって言ってたもん。――あ、そう言えばジョビーは? まだ寝てるの?」

 

 身を翻したルルフはピンクテントの隣のテントに近付き、両手で遠慮無しにバンバン叩いた。

 

「――ジョビー! ほらほら、早く起きなさーいっ!」

「ちょっ、ちょっと乱暴でしょ、それ!」

 

 紗季が慌てるのを気にせず叩いていると、開いた出入り口からジョアンが這い出て来て、半開きの眠そうな目で狼藉ろうぜき者を見上げた。

 

「グッモーニン、ジョビー」

「……ルルりん――ルルりんッ!」

 

 一気にシャキーンと立ち上がったジョアンはルルフの周りをぐるぐる回ってめつすがめつし、両手のこぶしを胸の前に上げてテンション高めに評した。

 

「何か、一晩見ないうちにさらにprettyになったんじゃない? ボクの目が今まで曇っていたのかなあ?――ユキト、どうだい?」

「う、うん……」

「そう言われてみると、そうかもしれないけど……」と、紗季。「気分的なものじゃない?――どう思う、加賀美さん?」

「私には分からないわね、まったく」

 

 ジョアンにねだって昨夜のバトルで得たポイントをもらい、それをシークレット・アプリのミラにチャージしたことで魅力が増していることなどユキトたちは知るよしもなく、ジョアンは両腕を派手に躍らせてほめそやした。

 

「何にせよ、ルルりんはgreat! これだけは間違いないッ! ルルりん、ボクが君をきっとhyper idolにしてみせるからねッ! 起業して成功したパパを超えるってボクの夢もかなうこと間違いなしだ!」

「アイドルだなんて……」潤が腕組みし、声にとげを生やす。「こんな状況でそんな浮かれたこと言っているのは、不謹慎じゃないかしら?」

「それはwrongだぞ、ジュン! こんなsituationだからこそ、ルルりんのsongが必要なんだ。ルルりんならみんなを勇気付けるのはもちろん、死んだ人たちの魂を鎮めたり残された人の心を癒したりできるはずさ! ルルりんの歌がどれだけ感動を与えるか、ジュンだって知っているだろ?」

「あんな歌……」

 

 苦々しげにつぶやいてそっぽを向く潤。その間に紗季が入り、本気でみんなのためを思って活動するのならいいんじゃないかと意見を述べた。

 

「――歌の力って侮れないと思うし、あたしは賛成だな。――斯波は?」

「あ、ああ、まあね」

 

 かたわらの潤を気にしてあいまいに返事するユキトにルルフは苦笑し、チャリティーコンサート開催を当面の目標に活動していくつもりと抱負を語った。

 

「――ルルの歌でみんなに元気になってもらいたいの。だから、みんなもルルりんキングダムのメンバーになってルルを応援してね。――ねっ、ユッキー!」

「えっ? あ、そ、その……」

「メンバーになるだろ、ユキト? 同じコミュに属してるとコネクトレベルも上がるしさ。サイトにアクセスして申請してくれればすぐに承認するから!――サキとジュンもよろしく!――よぉし、この調子でがんがんメンバー勧誘して、ルルりんキングダムをbigにしてみせるからね、ルルりん!」

「ありがと、ジョビー。あ、でも韓国系は外してね」

「えっ、why?」

「だって……」

 

 ルルフはつらそうな顔し、目を伏せた。

 

「――ルル、実はバイト先で韓国系の子たちにいじめられてたの……それを思い出したくないんだ。ゴメンね……」

「そ、そうだったんだね……差別は良くないと思うけど、そういう理由なら仕方ないかもね……」

「ホントにゴメンね。韓国系がいると、ルルと同じブラジル系の人たちが嫌がってメンバーになってくれないかもしれないし……」

「あぁ、韓国系とブラジル系って、縄張り争いとかで仲悪いって聞くもんね……OK、ルルりんの言う通りにするよ」

「そんなことをしているよりも――」ぶすっとした顔を背けたまま、潤が冷たく言う。「これからのことを考えた方がいいんじゃないかしら」

「そうだよね……」

 

 紗季がふっと目を上げ、不安定に揺らめくぼやけた地平を見て両手を腹の前で組み合わせる。

 

「……アイドル活動より先に、これからみんなでどうやっていくか、考えないとね……」

 

 救助が来るまで、あるいは自力でここから脱出するまで、この遺跡にいる659人がどう暮らしていくのか……潤と紗季の言葉でジョアンともども現実に引き戻されたユキトは、急にずしりと重くなった右手を左手でつかみ、下がり気味の視線をふらふらさまよわせた。

 

「……Don’t worryだよ。きっと、新田さんたちが考えてくれているさ」

「……そうだよな」

 

 ジョアンに鈍くうなずき、ユキトはのろのろ流動する空を仰いで息苦しげにつぶやいた。

 

「……困るよな。どうにかしてもらわないと……」