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REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

Mov.14 72時間を超えて(1)

 哀愁を帯びた口笛――乾いた空気に響く木枯らしのようなそれは、薄曇り色にくすんだ昼下がりの揺らぎに紛れて消える。大空間震で破壊され、大流動に押し流されてぼろぼろの虫歯の列のようになった石垣に腰かけ、黒いスポーツサンダルをはいた足をだらっと垂らすシン・リュソンの唇は、遺跡の北からニヒルな瞳に映る西にかけ、はかなげに揺らめく地平まで広がる茫漠ぼうばくとした岩だらけの砂漠に物悲しいメロディを聞かせていた。

 

「ぴーぴー、じょーずやねぇ。でも、なんかさみしーなあ」

 

 左隣に座るジュリアが、エジプトサンダルをはいた足をぶーらぶらさせて感想を口にする。向けられた純朴な瞳をうるさげに一瞥し、シンは首の右側を爪でボリボリかいて砂塵じみたため息を鼻から漏らした。

 

「……オメー、ナンでオレなんかにくっついてんだ?」

「オメーやあらへん。ジュリやろ」

「……ジュリは、ナニがおもしろくてくっついてんだよ?」

「うーん……なんでやろ?」

「しらねーよ。ったく……」

「そーやねえ……」

 

 おもむろに立ち上がったジュリアは小さな両手をぎゅっと握り固め、すうーっと息を吸って胸と腹を膨らませた。そして――

 

「――ぅうわああああああああああッッッ――――――――――――!」

 

 腹の底からの叫びが石垣の上から岩石砂漠の彼方へと空気を震わせ、見上げるシンの耳を打って目を丸くさせた。

 

「いきなりナンなんだよ、オメー! ビックリさせんなよ!」

「えへへぇ」

 

 照れ笑いしたジュリアはひょいと腰を下ろし、ばたばた足をはしゃがせた。

 

「――マネしたんよ。こないだ、シンちゃーもこのうえにたってさけんだやろ」

「……それが、どーしたってんだよ?」

「あんときのシンちゃーこわかったけど、おもいっきりさけんでんのきいてたら、なんかスッとしたんや。うち、いままでないてばかりやった。ママにどなられてもぶたれても。でも、いいもんやね。さけんでみんのも」

「ふん……オメー――ジュリのオフクロは、ニホンザルなんだろ?」

「えー? よーわからへんけど、コンケツらしいよ」

「ふぅん……オヤジは?」

「しらん。ずっとママとふたりや。でも、ママのカレシがいろいろくるけど。そんときは、うちおそとにだされるんよ」

「……」

「ねぇ、シンちゃーは?」

「あん?」

「シンちゃーのパパとママは、どんなひとなん?」

 

 問いにシンの唇はねじれて結ばれ、痛んだぼさぼさ前髪の奥でつり上がった目が暗くくすぶった。

 

「……どっちもクソさ。かってにうんだクセに、なまえもつけやしねえ……オフクロは、ガキのオレをすててほかのオトコんとこにいくようなクソだし、ニホンザルのオヤジは、ろくにシゴトもしねーでゲームばっかりして、きにくわねえことがあるとやつあたりでナグる、ケるしやがるクソさ。だから、あのクソをぎゃくにブチのめしてイエをでたんだよ」

「……そうやったんやね。じゃあ、シンちゃーのなまえって……?」

「じぶんでテキトーにつけたのさ。ニホンザルっぽいのはしんでもイヤだけど、マイケルとかフランクとかってカオでもねーだろ」

「あははははははははははははッッ! そーやね! あはははははははははははははッッッ!」

「オメー、ワラいすぎじゃねーか? ハラかかえやがって……とにかく、そんなワケでババアとおなじクニのヤツのなまえをテキトーにくみあわせたんだよ」

「そっかあ……シンちゃーは、ママにあいたいとかおもうん?」

「……べつに。それに、こんなコトになっちまったら、もうあうこともできねーだろ」

「どして? そのうちここからでられるって、ニーちゃん、いってたやないの?」

「……どーゆうジョーキョーか、よくワカってねーだろ、オメー」