REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©NaG∀T∴

Mov.13 心を一つに(12)

「……生き延びたんだな、僕たち――んっ?」

『――ユキト、無事か?』

 

 ウインドウでジョアンと紗季のバストアップが拡大し、画面を左右に分割する。両名ともへとへとで、頭の天辺てっぺんから足の爪先までずたぼろだったが、顔には生の喜びが満ちあふれていた。

 

「ジョアン!――篠沢も生きてたんだな!」

『はは、どうにかね。ルルりんたちもコネクトしたら元気だったよ』

『斯波、あんたも大丈夫そうで安心したわ』

「ありがとう」

 

 ジョアンたちが焚き火のところに移動すると言い、闇に輝くライトンの鼻もそちらへこぞって動き始めたので、ユキトはコネクトを一旦閉じ、はがねで固めた右前腕を垂らし、消耗しきった体を引きずって歩き出した。すると、そこに潤からの着信が飛び込んで来た。

 

『ユキト、無事なのね?』

「うん、潤も大けがとかしてない?」

『平気よ。今、そっちに行くわね』

 

 ヘブンズ・アイズを開くと、潤のキャラクター・アイコンが近付いていた。そして、ライトンの光が差し、セーラーブレザーとミニスカート、黒タイツのそこかしこが裂けた潤が駆け寄って来る。

 

「潤……!」

「ユキト……良かった……」

 

 ユキトの前で潤は立ち止まり、ワイシャツやスラックスの裂け目があらわにする痛々しい傷の数々を切なげに見た。

 

「大変だったよね……ポーション、使ってあげるね」

 

 潤が出現させたポーションの蓋をひねって振りかけると、制服と肉体がいくらかましになる。ユキトもお礼に手持ち最後のポーションをかけると、潤は嬉しそうに微笑みながら光の粒子を浴びた。

 

「それじゃ、焚き火のところに行きましょうか」

 

 白い手に左腕を軽く引っ張られ、踏み出すユキト――と、目の前が急に暗転し、両下肢から力が抜けて右膝が地面にドッと突く。治まったと思っためまいがまた起き、薄暗い視界がぐにゃぐにゃねじ曲がった。

 

「ど、どう――かし――た――の?」

 

 心配する声が、ひどくひずんで聞こえる。ゆがみに飲まれかけたユキトは左腕をつかむ潤の手にすがり、あえぎながらどうにか踏みとどまった。

 

「……だ、だい、じょうぶ……な、んでもない……から……」

「ごめんなさい、ポーションが足りなかったのね。今買うから、待っていて」

「い、いや……傷はもう……」

「だけど、顔色が悪いわよ。メガギガドリンクでも飲んでみる?」

「いいんだってッ!」

 

 怒声に驚き、潤の手が外れる。顔を背けたユキトは膝に手を置いてふらふら立ち上がり、ひびが入った眉間から額をナックル・ガントレットでこすって鋼の表面を冷や汗でぬらっと光らせると、ささくれた感情を押し殺して表情筋をぴくぴくけいれんさせた。

 

「……ごめん……ちょっと疲れてて……」

「……そう……」

 

 ひどく寒そうな目をした潤は長い黒髪を手櫛てぐしで何度かすき、足元の闇を見るともなく見ながら消え入りそうな声を出した。

 

「……ここで少し休む……?」

「いや……こんなところに2人だけでいたくないし……」

「……そう……」

 

 つぶやくように言って潤は先に歩き出し、その斜め後ろでユキトは鉄球付き足かせがはまっているように足を引きずった。すさまじい大災厄の影響が残る空間は、足を前に出すたびにざらつき、どろっとした感触で少年少女をなめ回していた……



【――死者、行方不明者、合わせて4名……重傷者26名……それがのちの調査で判明した被害でした。犠牲がそれで済んだのは、みんなが力を合わせたからだったのは間違いありません。それなのに……今にして思えば、テラ・イセクの大群と戦っていたときが一番幸せだったのかもしれません。仮にも心を一つにできた、あの一時ひとときが……――】