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REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

Mov.13 心を一つに(11)

 静寂――

 世界そのものが消滅したような静けさに、ユキトは恐る恐るまぶたを上げた。

 そこにあるのは、深い暗闇。

 広場の――小石混じりの土ではない、頬や左手に食い込む角ばった石の硬さにいったいどこへ流されたのかと戦慄していると、闇の方々からうめきや呼び声が微かに聞こえ、遠くの方でのろのろ動き出す気配がした。

 

「……収まったのか、空間震……」

 

 ナックル・ガントレットをはめた右手を引きずったユキトは節々ふしぶしがひび割れ、あちこちの筋肉が断裂したような痛みに耐えて体を起こし、ようやっと四つん這いになった。全身はまるで岩ややいばと一緒に洗濯機に放り込まれたように血と汗にまみれ、ワイシャツやスラックスはずたずたというひどい状態。周囲の状況を確かめようと考えると、目の前――闇に染まった地面との間に羊皮紙デザインのウインドウがパッと開いてユキトのキャラクター・アイコンが中央に表示されたハイ・アングルの3Dマップを映す。

 

 現在位置は……大遺構前から数百メートル西――

 

 死に物狂いで地面にしがみついていたにもかかわらず、広場を囲む崩れた石壁を越えて……しかし、石垣の外に飛び出すのは防げたと胸を撫で下ろしたユキトは、マップに映る惨状――ぐちゃぐちゃに荒廃した墓地をほうふつとさせる遺構の成れの果てにしばし絶句し、遺跡全体がどうなっているのか確かめようと縮尺を小さくした。

 

「……これは……!」

 

 ヘブンズ・アイズに目をむき、ユキトは口をあんぐりさせた。上から見るとひょうたん形をしていた外郭がいかくがカニのハサミ形に変形しており、遺構はどこも瓦礫が散らばったような、名残をほとんど残さない見るも無残な有様をさらしていた。さらに遺跡周辺がどうなっているか調べると、――大空間震と大流動の影響で遺跡から離れるほど空間のゆがみがひどくなるので、幼児の落書きレベルのマップデータしか得られなかったが――北から西にかけて岩石砂漠が広がり、東と南には広大な森を挟んで山脈が連なっていて、流動前とはかなり風景が変わっていた。

 

「……世界が……そういえば……」

 

 頭を上げたユキトはテラ・イセクを捜して辺りを見回し、ヘブンズ・アイズをチェックしたが、空間のゆがみが障害になっているせいか、遺跡内にも外側にも赤い光点はまったく見つけられなかった。

 

「あれだけいたのに……まさか、全部……」

『その通りです、斯波ユキト』

「お前……!」

 

 暗闇から光球がきらめいて現れ、地面に半ば埋まった大石の上に座り込んだユキトの斜め上から事務的口調で告げる。

 

『テラ・イセクは、残らず押し流されました。あなた方は命拾いしたのです。おめでとうございます』

「ふざけるな……! 心にも無いような言い方をして……!」

『それは失礼致しました。しかし、これで一安心でしょう。他の方々も『私』から同じことをお聞きになって喜んでおられますよ』

 

 確かに星々のそれに似たいくつものきらめきが闇に見え、わあっと歓喜の声が上がる。コネクトのウインドウを開くと、喜びで紅潮し、感泣かんきゅうするたくさんの顔が咲き乱れていた。

 

「……助かった……――うっ……!」

 

 片膝を立て、立ち上がろうとしたところでめまいに襲われ、グラッと倒れかけて大石がいくつも埋まる地面に両手を突く。ぐにゃりとした暗い意識から生じる吐き気をこらえて歯を食いしばっていると、ゆがみはだんだん収まってきた。

 

「……デモン・カーズか……」

『あなたは戦闘時、無意識にバーストなさっていました。だから、深手を負わずに済んだのです』

「く……!」

 

 鉛のように重い体を前のめりにして立ち上がり、ユキトは顔の汗を左手の平でごしごし拭って荒い息を吐いた。乾いた口中ににじむ唾を飲み、落ち着こうと呼吸を繰り返していると、大遺構近くでぼわっと炎が上がって赤橙の光のドームが生まれ、イメージ・コネクトが着信して疲弊した顔の新田から全員へ危機を脱したことがあらためて伝えられた。それでまた一帯から歓声が噴き上がった。