REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©NaG∀T∴

Mov.13 心を一つに(7)

「――あっ、あ、ああああ……ああッ!」

 

 エリーの小さな目が異常にむかれ、おびえて抱き付いたジュリアにガクガク揺さぶられるたび、あんぐりと開いた口からおぼれたような声があふれる。コンコルディ遺跡上空に現れた赤い星の海――三対の単眼を赤くぎらつかせ、重低音の羽音を重ねて空間を波立て、荒れさせる膨大な数の黒い怪虫は、遺跡に降下した個体がやられたらすぐにその穴を埋めようと待機している。その絶望的光景に失神寸前のエリーたちケア・チームのメンバー30余名は、ベース・エリア中央の焚き火に助けを乞うように身を寄せた。

 

「――ギャアアアアーッッッ! ムシがッ、ムシが、ぎょうさんやあッッッ! ギャアアアンッッッッ!」

「うるさいッ! ぎゃあぎゃあ騒がないでよッッ!」

 

 ルルフが泣きわめくジュリアを怒鳴りつけ、ベース・エリアの北、大遺構前で赤い流星雨を迎え撃ち、地上に降り立って群がるテラ・イセクと乱戦を繰り広げる仲間たちに目をすがらせ、震える左右の手で藁をもつかむようにサイドのブロンドをごちゃごちゃいじる。唾液で濡れた牙と節足の先で尖る爪とで頭上から飛びかかり、後ろ脚でグワッと立ち上がって突っ込んで来るライオン大の怪虫の波濤はとうに若者たちは抗い、鮮血を散らしながら光のちりの波しぶきを発生させていたが、600強に対しておよそ3000000000体という桁が違い過ぎる数は、テラ・イセクがそれほど強くないとしても、まったく勝ち目など無い負け戦でしかなかった。

 

 ――どっ、どうしてこんなにとんでもない数なんだよ?――

 ――ここに、焚き火のそばにいれば平気なのよね?――

 ――だ、だけど、戦っている人たちがやられてしまったら――

 

 気が触れたように揺れる炎の色と陰影とに染まった少年少女が、どもりながら引きつった声を交わす。守ってくれている炎も、燃料としてチャージされているポイントが無くなれば消えてしまう。そうなったときに新田たちが全滅していたら、ケア・チームのメンバーも同じ運命をたどるのは必至で、ルルフは後方から炎で赤く焼かれる熾烈な死闘に食い入って、汗ばんだ両手を胸の前で固く握り合わせた。

 

「……何とかしてよ……!――きゃっ!」

 

 戦列からよろよろ離れたハイティーンの少年が、荒波から逃れて命からがら浜辺に上がって来たていでベース・エリアの中に倒れ込む。そして、ボウガンを握ったまま這って中央へ近付くと、あちこち切り裂かれたブロックチェックの長袖シャツとモカのチノ・パンツを汚した血が、焚き火に照らされてはっきりと見えた。

 

「……ポ、ポーションがもう無いんだ。早く……手当て、を……」

「……て、手当て……あっ、そ、そうね――」

 

 ルルフは自分たちの役目を思い出し、慌ててイジゲンポケットからポーションを出すと年かさの少年に近付いて蓋をひねった。光の粒子が振りかけられると、傷口が塞がって裂けた衣類が元通りになる。そうしている間にも、手傷を負った者たちが息を切らしながら次々逃げ込んで治癒と休息を渇望した。

 

「――みんなを手当てしないと……!――あなたたち、ボーっとしてないでッ!」

「あっ、は、はいっ!」

 

 立ち尽くしていたエリーが目をパチパチさせ、抱き付いているジュリアを引っ張りながら負傷者の元へ急ぐと、他のケア・チームメンバーも事前に渡されていたポーションを手に手当てに取りかかった。傷が癒えた者はすぐさま死闘に戻り、入れ替わりに新たな負傷者が飛び込んで来る。その対応にてんてこ舞いのエリーは、いきなりがばっと首に抱き付かれて驚き、悲鳴を上げた。

 

「――どっ、ど、どうしたの、ジュリアちゃん?」

「コワいんがくる! コワいんがッ!」

「え? こ、怖いもの……?」

 

 おびえてかじり付き、高熱が出たかのようにガタガタ震えるジュリアにエリーはたじろぎ、怒号と悲鳴が絶え間無く飛散する激戦場に目を向け、おぞましい羽音を響かせる赤い星の海をおののきながら見上げた。

 

「……こ、怖いものが来るって、も、もう来てるんじゃ……?」

「ちゃうんよッ! もっと……もっとコワいもんがくるんやッ!」

「も、もっとって……」

 

 引き込まれたエリーは負傷者の切羽詰まった声で我に返り、執拗に訴えるジュリアを引きずりながら請われるままに手当てを行った。

 

「――エーリ! にげへんとあかんよぉ! はようッ!」

「そ、そんなこと言われても……」

 

 ぐいぐい腕を引っ張る半狂乱のジュリア――困惑するエリーは手当ての要求にも急かされてポーション片手にまごまごし、最前線で戦っているはずの新田を捜して視線をふらつかせた。