REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

Mov.13 心を一つに(6)

『いよいよだぞ、みんな。恐れる必要は無い。俺たちが力を合わせれば、必ず勝てる!』

 

 こぶしを高く挙げて力強く励ますと、ワンがアップバングの頭のすぐ上へすうと降下して、カウントダウンを始めると告げた。

 

『午前0時まで、あと30、29、28――』

 

 皆の顔がこわばり、窒息しそうなほど緊張が増していく。だが、そうした心情を斟酌しんしゃくすることなく、カウントダウンは単調にきらめきながら響く。

 

 ――4――

 

 ――3――

 

 ――2――

 

 ――1――

 

 ――0――――

 

 午前0時になり、ポイント切れになった焚き火がふうっと消えて闇が一気に包囲を狭める。ベース・エリアを構成する五つの炎だけになり、武器を手に息をんだ若者たちが背後からうっすら照らされる程度なら、先の戦闘で追い払うために設置した焚き火の数、明るさから考えて、テラ・イセクが襲って来るはずだった。

 

「……来ないのか?」

 

 いぶかり、ユキトは動きの無い赤く光る積乱雲とルーティンワークを続けるデジタル表示とを交互に見つめた。少しとはいえ、焚き火が残っているからなのだろうか?――緊迫した静寂にわずかなざわめきが生じたとき、3Dマップ上で赤い光点の集合体がダム決壊さながらにどっと南下し始め、663のアラートが一斉に真っ赤な叫びを繰り返してフォーメーションを揺らがせる。

 

 大群が、来る!――

 

 身構えたユキトは、揺らめく闇の彼方から湧き上がる赤い星々へライトンの光る鼻を向けて凝視した。無数の単眼のぎらつきで構成される赤い激流――それは、2日前と同じように怖気おぞけ立つ羽音を響かせて急接近し――

 

「――なっ、何だ、これッ!」

 

 驚愕きょうがくするユキトの周りでどよめきが空間を激しく震わせ、目玉が飛び出そうなほど目を見張った若者たちが浮足立つ。うろこ雲を上塗りして空一面を覆うすさまじい幅とかさ――大津波さながらのそれは、行く手にあるすべてを飲み込まんとする凶暴な勢いで押し寄せて来た。

 

「――い、いったいどれだけいるんだッ? 30000とか40000じゃないぞッ!」

『およそ3000000000体です』

 

 ぎょっとして目を転じると、いつの間にか距離を縮めて斜め上に浮かぶワンのきらめきが網膜もうまくに刺さる。

 

「さっ、30億……! ヘブンズ・アイズ上では、そんなに増えた様子は無かったじゃないかッ!」

『テラ・イセクたちは周囲に広がらず、密度を増す形で増殖していたのです。加えて、遠隔の未踏地でマップが漠然とし、縮尺に制限がかかっている状態では、提供される情報もあいまいなものにならざるを得ません』

「ふっ、ふざけるなッ! こんなの、あいまいで済まされるレベルじゃないだろッ!」

 

 群れの大きさに目立った変化は認められなかった――それゆえ、自分たちに都合良く解釈していた若者たちは、予想をはるかに上回る形で裏切られた衝撃でフォーメーションを崩し始めていた。そこにコネクトが入り、ウインドウ越しに新田が踏みとどまるよう必死に声を張り上げる。

 

『――うろたえるなッ! 引いたら、やられるだけだぞッ!――後列、攻撃用意ッッ!』

 

 新田に続いて右翼の佐伯と左翼の後藤も指示を出し、それでどうにか後列メンバーが弓を引き、銃口を空に向け、手の中で炎や稲妻を発生させて迎え撃つ態勢を整える。振り返ってそれを確かめたユキトは、よろめきながら踏ん張って襲い来る赤い大津波に備えた。

 

「……やるしかないんだ! じゃないと――」

『――今だ、撃てェッッ!』

 

 新田の号令がコネクトから響き、後列から遮二無二しゃにむに飛ぶ矢、弾丸、炎や稲妻が、赤く光る天上が崩れ落ちるように急降下する怪虫の大群に飲み込まれた――