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REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

Mov.13 心を一つに(3)

 十数秒おきに、時計アプリで時刻を確認――

 佐伯と後藤の前を通って、右に左にうろうろ――

 アップバングの黒髪を、両手で何度もかき上げる――

 ほぼ土台しか石積みが残っていない大遺構前で新田はそわそわ動き、広場で複数の焚き火に四方八方から照らされる多様な服装の600人強が取った鶴翼かくよくのフォーメーションを、それから、その後方のベース・エリアに固まる数十名を見ると、目の前で時を刻み続けるデジタル表示を再びチェックした。午前0時まで15分を切り、テラ・イセクの大群との決戦が刻々と近付いている。鼓動が早まる新田はビジネスシューズを止めて振り返り、炎を落ち着きなく揺らす焚き火と大遺構越しに無数の災いをはらんだようなうろこ雲がかぶさる闇を不安げに見つめた。

 

「……うまくいくだろうか……」

「落ち着いて下さい」

 

 つぶやきを耳にした後藤が硬く尖った黒フレームを動かし、メガネレンズ越しに新田をとらえてピシッとたしなめる。その右手には、一日半前より刃がいくらか幅広、肉厚になり、アサルトライフルがいかつさを増した銃剣ベヨネッタが握られている。

 

「――リーダーに迷いがあると、みなが浮足立ちます。今は、戦いに勝利することだけを考えて下さい」

「……分かってるさ……だけど、テラ・イセクがどのくらい増えているのか分からないんだ。ワンも教えないしな……」

 

 新田はクールに腹をくくった感の後藤を見、反対側で抜き身の日本刀――義平よしひらを右手に握って下げ、泰然自若たいぜんじじゃくとしている佐伯をうかがってからヘブンズ・アイズを開いた。羊皮紙デザインのウインドウには遺跡の北20キロメートル地点に広がる湿地帯と、テラ・イセクの群れを表す真っ赤な光点の集合体が積乱雲状に表示されている。遠方であるほど流動の妨害がひどくなるのに加え、未踏の場所はマップが大雑把おおざっぱで拡大にも制限がかかる設定なので、そこにいるテラ・イセクの数を詳しく知ることはできなかった。

 

「……みんなを動揺させたくなくて口にしなかったけど、もし、こちらの予想をはるかに上回る数になっていたら……」

「これは、あなたが承認した作戦でしょう」

 

 佐伯が顔を斜にしたまま、にべもなく言う。

 

「――午前0時にベース・エリアを構成する焚き火以外消えるようにし、テラ・イセクの群れをあえて呼び込んでせん滅する、と」

「私たちは、この作戦にかけるしかない。迷いはマイナスにしかなりません」

 

 右と左から指摘された新田は苦そうに口を曲げ、右手の平で汗ばんだ額を下から上にこすって眉間に寄った縦しわを伸ばした。

 

「……数日前までただの会社員だったのに、どうしてこんな……」

 

 泣き言を口にし、左手薬指にはまるプラチナの指輪を切なげに見つめる新田にどちらからも声はかけられず、薪がはぜる音と群れのざわめきが赤橙の薄暗がりを微かに震わす。新田は独り嘆いた後に左手を握り固め、マリッジリングを右手で強く包んだ。

 

「……こんなところでやられてたまるか……! 俺は、絶対に帰るんだ……!」

 

 まなざしに再び闘志が宿る。それを見た後藤は、予定通りコネクトでみんなを鼓舞こぶするように促した。

 

「――士気を高めるために、か」

「不安なのは皆同じ。だからこそ、リーダーでありヒーローであるあなたの叱咤激励しったげきれいが必要なのです」

「リーダーでヒーロー……大変だな……」

 

 苦笑した新田は両手で髪を前から後ろに撫でつけて目を上げ、後藤と佐伯の斜め前から左右に広がった若者たちの方へ一歩近付くと、ヘブンズ・アイズのウインドウを横に滑らせてコネクトを開き、全員にコールした。すると、10メートル弱離れた若者たちが注目して応答し、焚き火を背にした新田の前に浮かぶコネクトのウインドウが80インチ、たたみじょうくらいの大きさに拡大する。中央・右翼・左翼それぞれ約200名がさらに前列・後列に分けられた各チームと、その後方のベース・エリアにいるケア・チームメンバーの顔――緊張しきってガチガチの顔、今にも泣き出しそうな顔、覚悟を決めて歯を食いしばった顔……それら各人各様の顔が縦横に並んだウインドウを見た新田は、鼻から深く息を吸って口を開いた。