REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©NaG∀T∴

Mov.13 心を一つに(1)

「……み、みなさ~ん……あの、ケ、ケア・チームに配属された人は、集合場所――ベース・エリアに集まって下さ~い……」

 

 おどおどしたエリーの呼びかけ……赤橙の熱っぽい薄暗がりを微かに震わす声は、あちこちから三々五々広場に踏み入ってばらばら、のろのろうろつく若者たちの不安げなざわめきにたちまちかき消された。

 少女が迷子のようなていで立つのは、大遺構前の広場南端に設けられたベース・エリアのかなめになっている焚き火のそば。これを中心に、四方に設置された焚き火が形成する一辺10メートル弱の正方形――ちょうど柔道や剣道の試合場の大きさ――の領域がベース・エリア。そして、昨朝の集会散会後に必要最低限に整理され、広場の内外――ベース・エリア周辺一帯を明かりで漏れ無くカバーしている炎の数々。ベース・エリアを構成する五つの焚き火を除いたこれらは作戦開始時刻の午前0時ちょうどに消えるように燃料代わりのポイントを調整されている。その赤橙色の結界の中を、大半の若者たちは学校並みの建築面積がある大遺構の前――テラ・イセクの大群を迎え撃つ陣が敷かれる予定の場所へぼちぼち移動しているところだったが、その足取りは決戦を前にした緊張と同時に少しでも先延ばしにしたいという気持ちがにじんだ、どうにも重いものだった。

 

「……あ、あの……ケア・チームの集合場所は、ここです……」

「エリーちゃん、もっとおっきい声出そうよ」

「あ、し、篠沢さん……ご、ごめんなさい……」

 

 洋弓を左手で持つオレンジジャージの紗季に横から声をかけられ、エリーは申し訳なさそうにうつむいてもじもじした。

 

「てか、アプリ使おうよ。『ケア・チーム』でアドレスブックを検索して、該当する人にコネクトすればいいじゃない」

「……はい……」

「……もしかして、知らない人としゃべるの苦手なの?」

「……」

「……新田さんからケア・チームの人を集める役目を任されたんでしょ? だったら頑張ろうよ」

 

 紗季はライトグリーンのカーディガンを着たエリーの肩を優しく叩き、あたしも協力するからと言って該当者を検索し、アドレスブックと連携しているコネクトを開くと大きく息を吸った。

 

「――ケア・チームのみなさぁーん! あと30分もしたら決戦が始まるんだから、早めに集まって下さーいっ!――ほら、エリーちゃんも一緒に!」

「は、はい……」

 

 地味な褐色顔を恥じらわせ、エリーは紗季に倣ってためらいがちにコネクトで呼びかけた。もっと大きな声でと発破はっぱをかけた紗季は、カーゴパンツのポケットに右手を突っ込んで近付くシン、彼の黒いVネック半袖Tシャツの裾を右手でつかんでぴょんぴょんついて来るジュリアを見つけて手を振った。ジュリアはくりくりした目を輝かせてぶんぶん手を振り返し、シンから離れて駆け寄るとまず紗季に、それからエリーに遠慮なく抱き付いて、くしゃくしゃのピンク髪で顔をくすぐった。

 

「エーリ、うちとおんなじチームやね~ すごいグーゼンやわぁ」

「え? あ、う、うん……」

「やれやれ……」

 

 面倒臭げに追い付いたシンが、ぼさぼさ頭をボリボリかく。

 

「――たたかいのやくにたたねーヤツは、みんなそうなんだよ。カンゲキするようなことじゃねえ」

「ジュリアちゃんを送って来てくれたのね。ありがとう、シン。ところで、あんたはどのチームになったの?」

 

 紗季は、むすっとしている少年に気安く話しかけた。テラ・イセクの大群は、左右に翼を広げた陣形――いわゆる鶴翼かくよくの陣で迎え撃つ計画になっている。その陣は便宜上、中央、右翼、左翼チームで構成されていて、各チームには剣や槍など近接武器のスキルが高い者たちと弓や銃器、魔法などを得意とする者たちとがバランス良く振り分けられていた。襲来する群れをまず遠距離攻撃し、それをかいくぐって地上に降りた個体は接近戦で叩く。傷の治療や休息が必要になったら、安全地帯のベース・エリアに避難してケア・チームの手当てを受け、一息ついてから戦いに戻るという作戦である。

 

「そんなもんはカンケーねーよ。ようは、あのクモバッタどもをブッころせばいいんだろ」

「こら! チームワークしなきゃいけないんだからね! 分かってるの?」

「うっせーな、ちゃぱつババア」

「バ……あたし、あんたと2つしか違わないのよ!」

 

 栗色の髪を右手で触る紗季が目をつり上げると、シンは「へっ」と笑って離れた。

 

「あ、待ちなさい! ちゃんと協力するのよっ!」

 

 シンは注意を背で受け、ルルフをエスコートするジョアンとすれ違って行ってしまった。ジョアンの方は、しゃなりしゃなりと歩いて周囲の注目を集めるツインテール少女を愛しげに横から見つめ続け、紗季たちの前に来ると、人群れに紛れるシンの後ろ姿を苦笑しながら振り返った。