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REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

Mov.12 イジン(6)

「――そこまでにしておけ!」

 

 とどろく佐伯の声が、張り詰めた緊張にひびを入れる。道を開ける少年少女の間を毅然きぜんと歩く佐伯は矢萩に横から近付き、アサルトライフルを下ろすようにさとした。

 

「――矢萩君、ヤマトオノコは高貴でなければならないと教えたはずだな? 移民やミックスだからという理由で、いたずらにしいたげるべきではない」

「だけど、あのイジンが……!」

「我々は決戦を控えているのだ。余計な争いをしている暇は無い。それぞれのチームに戻ってトレーニングを続けろ」

「……はい……」

 

 不満そうではあったが、矢萩はおとなしくアサルトライフルを下ろしてイジゲンポケットにしまい、バイオレントⅣを構えたままのシンをにらみつけた。

 

「覚えてろよ、イジン……!」

「ホザいてんじゃねーぞ、パーマザル。ブッころされたいんなら、いつでもかかってきやがれ!」

 

 挑発したシンはギロッとにらむ佐伯にさっと背を向け、傍観者を蹴散らすように歩いて群れから離れていった。その後ろ姿を執拗に追っていた矢萩は、新田が駆け寄って来るのに気付くと仲間たちに目配せし、佐伯にペコッと頭を下げてその場を離れた。

「――いったい何をやっていたんだ?」

 

 騒ぎを耳にした新田がようやく現場に到着し、佐伯、そしてずたずたの格好でへたり込んでいる王生を見て戸惑う。

 

「悪ふざけが過ぎたのですよ」

 

 佐伯は暗色系のファッションを少しはすにし、断ち切るように告げた。

 

「――矢萩君たちには、自分から厳しく言っておきます」

「……そうか。頼んだよ」

「はい」

 

 堅苦しく頭を下げた佐伯は王生の半べそ顔を冷ややかに見下ろし、ユキトの右横を歩いて潤がいる方に戻って行った。

 

「……けがはないか、王生君?」

「あ……は、はい……」

 

 ぼんやり返事をした王生はかがんで差し出された右手へ遠慮がちに目を向けたが、そこでいきなり左腕をつかまれ、強引に引っ張り起こされた。

 

「大丈夫かあ、ユン。かわいそうに……まったくひどい奴らだよなあ~」

 

 ショートスピアを左手で握るクォンが王生――ユンを哀れみ、うつむいた少年の肩にがっちり右手をかけると、新田をキツネ目で見据えていかにも嘆かわしげに訴えた。

 

「困りますね、ああいう手合いは。まったく……何とかして下さいよ、リーダー。お願いしますよ」

「分かっている……すまなかったね」

「頼みますよ、本当に!――さ、向こうで手当てをしような、ユン。ああ、ひどい、ひどい……」

 

 クォンは囚人のように暗い顔をした王生の肩をきつく抱き、耳元で何事かささやきながら外側へ連れて行った。そのときには傍観者たちのほとんどはトレーニングを再開しており、ユキトもやましさを忘れようと動きかけた。

 

「最低よね!」

「えっ?」

 

 左から聞こえた紗季の厳しい声にユキトはぎくっとし、こわごわ顔を向けた。だが、洋弓の白いグリップを握り締めた紗季の目は、ユキトではなく何事も無かったかのように訓練に交ざる矢萩を深く突き刺していた。

 

「同じ人間なのに、あんなことするなんてひど過ぎるわよ!」

「……そうだよな……」

何人なにじんだろうと、良い人もいれば悪い人もいるじゃない。純血じゃないってだけでいじめるなんて最悪よッ!」

「うん……」

 

 こくりとうなずいたユキトはナックル・ガントレットをはめた右腕に目をやり、ナックルダスターに左手を重ねると、怒れる少女を横目でうかがいながらわき上がった疑問を口にした。

 

「……もし……同じ人間じゃなかったら、どうなのかな?……」

「は? まさか、あんたもイジンだからって――」

「い、いや違うよ。そうじゃなくて……その、例えば相手が人間じゃなくて化け物だったら、ひどいことをされても仕方ないのかなって……」

「はぁ?……急におかしなこと言うわね~」

 

 紗季はうつむくユキトに首を傾げたが、横顔に向かってすぐにはっきり返した。

 

「化け物だろうと何だろうと、命は大切にするべきだと思うけどね。ここじゃモンスターが襲って来るわ、倒してポイントを手に入れなきゃ生きていけないわって設定になってるから、あたしもこうしてトレーニングしてるけど、そうじゃなかったらこんなことしないわよ。共存できるのなら、そうしたいわ」

「……そっか……」

 

 真っ直ぐな言葉にユキトはそっと顔を上げ、体のこわばりを緩めた。

 

「……お前、いいヤツだよな」

「……何だか変ね、あんた。顔もちょっと白いし、疲れてるんじゃない?」

「いや……別に平気だよ」

「無理して体調崩したら、元も子もないのよ。もういいから休憩に入りなさいよ。ほら、これあげる」

 

 紗季の右手の中に金色のガラス瓶が現れる。栄養ドリンク〈メガギガドリンク〉100ml――スタミナアップ効果を持つアイテムである。

 

「いいのか……?」

「いいわよ、これくらい。その代わり、お返しは3倍にしてね」

「はっ?」

「冗談よ。ほら、周りの邪魔になるから早く行って」

 

 メガギガドリンクを渡されたユキトは背中を押され、チーム戦の波間を縫って外側へ歩くと、近くに誰もいないところを見つけて腰を下ろし、スラックスとトランクス越しに草の葉のざらつきを感じ、微かな流動に肌をこすられながら額の汗を左手の甲で拭ってため息をついた。顔色が悪いのは、新田相手に苦戦する中で活性化したデモン・カーズがもたらしただるさのせい。ユキトは広大な平原で繰り広げられる激しい躍動を眺め、ヘブンズ・アイズで位置確認した場所で牝鹿めじかのように駆けて矢を放つ紗季を遠目に見つめた。

 

「……だけど、そんなこと言ったって……」

 

 もし不気味な怪物になり果てたら、お前だって僕を差別するんじゃないのか?――

 左手でメガギガドリンクを握り締め、ユキトは胸に疑念をこもらせて地平に目を転じた。彼方でつらなる山々は流動で像がぼやけており、今にも崩れてこちらに押し寄せて来るようだった。