読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

Mov.12 イジン(5)

 自チームの波に交じって実戦訓練していたユキトは耳障りな哄笑こうしょうに足を止め、下卑げびたさざ波の源へひそめた眉を向けた。気が散って鈍った攻防の満ち引きを間に40メートル弱離れたそこでは、白ジャケットとベージュのスラックスのあちこちを無残に切られた王生いくるみ雅哉まさやが地面に尻をついてあえぎ、いかにも安物、初心者用といった感のショートソードを草の上に落としたまま、自分を四方から囲む少年少女をおびえた目で見上げていた。

 

「もうを上げるのかよ、ユン・ハジン」

 

 矢萩が頬骨尖る顔をにやつかせて王生に日本刀を突き付け、それを他の3人が三者三様の嘲笑であおる。

 

「――まったくだらしないよな、イジンは! ええ、ユン・ハジンッ!」

「ぼ、ぼくは、王生雅哉です……」

「アハハハハッ!」

 

 左手と赤黒い鞭――ブルウィップを持った右手を貧しい胸の前でバンバンぶつけ、イエローゴールドの髪をミニーちゃんヘアにしたえら張り顔のミドルティーン・ガールが下品に笑う。

 

「――『ぼ、ぼくは、王生雅哉です……』だって! ウッケる~!」

 

 入谷いりや玲莉れいり――ハサミを思わせる両目をマスカラでハエジゴクのようになったまつ毛で飾り、アヒル口をゆがめて笑う長袖ブラウスにグレーのベスト、そして黒ミニスカの制服少女は、いじめられっ子をいたぶる調子でそしった。

 

「――イジンのくせに日本人の振りしちゃってさぁ!――サイアクよねぇ?」

 

 振られたソフトモヒカンの年かさ少年が冷笑しながら鎖鎌の鎖分銅を左手でくーるくーる回して「そうだなあ」とうなずき、学ランの上着の前をはだけさせ、つかが黒塗りの素槍を肩に担いだむっつり少年が、冷血な目で同い年くらいの王生を見下ろす。

 ストリート系柄入りTシャツにグレーの長袖シャツ、緩い黒デニムジーンズにスニーカーを履いたハタチくらいの鎖鎌少年が中塚なかつか崇史たかし

 ボタンがすべて外れた上着からワイシャツをのぞかせる槍少年が、真木まぎカズキ。

 類は友を呼ぶということわざ通り矢萩とこの3人は意気投合し、今も頭上に浮かぶマーカーの色が皆同じではないのにつるんで悪行あくぎょうを働いていた。

 

「お前がイジンだってことは、割れてるんだよ!」

 

 悪友に勢い付けられた矢萩は震えるひ弱げな鼻頭に切っ先を近付け、バリアにグッと食い込ませた。

 

「――ユン・ハジンって名前が、特記事項に出てるからなァ!」

「ぼ、ぼくは、日本人です……」

 

 おののきながら抗う弱い光の中で、声がうわずる。

 

「――お母さんは日本人で、ぼくは日本生まれ……ユ、ユン・ハジンは、ルーツを忘れないようにってお父さんが本名とは別に付けてくれたもので……」

「黙れ、えせ野郎がッ!」

 

 矢萩のショートブーツが、左肩をガッと蹴って王生を地面に倒す。アドレスブックに登録されると閲覧可能になるプロフィールには純血日本人なのか、それとも移民やミックスなのかまで載っており、王生の場合はユン・ハジンという韓国名のことまでさらされていた。

 

「――お前みたいなイジンが、日本人をかたるなんて許されないんだよッ! ふざけやがってッ!」

「アハハハハッ! ざんねーん、ユンちゃーん!」

 

 入谷の甲高かんだかい嘲笑が、周囲の視線を集める。残忍な猫たちになぶられるねずみさながらの王生は矢萩たちの間から視線であちらこちらに助けを求め、見て見ぬふりをする少年少女の間を流れてユキトにすがった。

 

(――っ!)

 

 とっさにユキトは目をそらし、関わり合いを避けてしまった。

 後ろめたさがこみ上げ、胸が苦しくなる。だが、何となく気に入らない王生のためにトラブルに巻き込まれるのはご免だった。傍観と知らんぷりが辺りを支配する中、ユキトのそばに来た紗季が見かねて止めに入ろうとしたそのとき、ドォンッと銃声がとどろいて矢萩たちの顔の狭間を弾丸が撃ち抜いた。

 

「――誰だッ!」

 

 うねった焦げ茶髪を揺らした矢萩と3人は王生からはじけて目を走らせ、ごついリボルバーを片手で構えた金髪少年を数十メートル離れたところに見つけると、眉根や目元に幾筋もの溝を刻んだ。

 

「貴様……!」

 

 うなる矢萩と入谷たちににらまれたのは、バイオレントⅣの銃口を据えてトリガーに指をかけたシン・リュソン。ユキトたちと別方向に立つ少年は、中塚が濃い眉を寄せて腰を少し引き、真木が無言で槍の穂先を向け、ブルウイップを振ってすごむ入谷のそばで自分の方に向き直った矢萩が構えた刀の切っ先を上げるのをオオカミじみた目でにらみ返した。

 

「……このクソガキィ、中国系が韓国系をかばおうってのか……!」

「オレは、テメーらニホンザルがキーキーうるせーのがムカついただけだ。そいつなんか、どーでもいい」

 

 ぼさぼさ前髪越しに両目を凶暴に燃やすシンが撃鉄をガチッと起こすと、矢萩は日本刀をイジゲンポケットに戻す代わりに出現させた銃器――アンダーバレル式グレネード・ランチャーを取り付けたH&K G36タイプのアサルトライフル――を素早く構えてドットサイトをのぞいた。それぞれのバリアはレベルアップしてボディアーマー並みの強度になっているが、銃器も強化されて破壊力を増しているので、まともにやり合えば互いに重傷を負いかねない。傍観者たちがざわつき、手をこまねくユキトの横で紗季がやめるように怒鳴ったが、頭に血がのぼった両者は聞く耳を持たずにトリガーを引きかけた。