REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©NaG∀T∴

Mov.12 イジン(4)

「――この調子だと、いずれ斯波君に追い抜かれてしまうかな」

「そんな……新田さんには、あの力があるじゃないですか」

「あの力?」

「樹海で僕らを助けてくれたときの力です」

「あー、あれね」と思い出し、紗季が新田を見て目を輝かせる。「目が金色になって、すごかったですよね!」

「ホント、ホント。あれはgreatestだったよな~」

「あれか……」

 

 新田は眉とまぶたを少し下げ、鈍く光るマリッジリングがはまる左手で首筋を撫でた。

 

「……あのスペシャル・スキルは、けっこう負担が大きくてね。正直、あんまり使いたくないんだ……」

 

 紗季が、「そういえばあのときも使った後、つらそうでしたね」と挙げると、新田はあいまいにうなずき、時計アプリを開いて時間を確かめた。

 

「……交代時間には少し早いけど、先に休憩に入らせてもらうね。君たちはそのまま続けてくれ」

 

 そう言い残して新田は離れ、流れ弾等に注意しながら実戦訓練の間を通って波間に消えるように外側へと去った。

 

「……僕、やり過ぎたのかな?」

「どうかしら……新田さんは、そんなにやわじゃないと思うけど」

「ニッタさんはstrongだから、余裕があるんだよ。ボクらは地道にlevel upするしかないね……よし、ボク、ちょっとルルりんの顔見て来るよ!」

「はい? どうしてそうなるのよ?」

「prettyな顔を見て、fightをchargeするんだよ。じゃ!」

「ちょっと、ジョアンッ!」

 

 眉を上げる紗季を笑顔でいなし、ジョアンは戦闘スキルが極めて低い者たちが特別トレーニングメニューを受けている遺跡石段そばへ鉄砲玉になって飛んでいった。その後ろ姿に紗季は「はあっ……」とため息をつき、ユキトの方を向くと火傷やけどを負った右上腕を観察した。

 

「キュア・ブレス、かけよっか?」

「ん? いや、いいよ。これくらいどうってことないし、どうせまた傷を負うんだから」

「そっか、じゃあ……」

 

 タブを装着した右手にイジゲンポケットから矢が出現し、握られる。

 

「……続きやりましょうか。あたし、もっと命中率上げないと」

「え? ああ……」

「何よ、その気の抜けた返事は? もっとしゃっきりしなさいよ」

「うるさいな……まったく可愛かわいげがないんだから」

 

 こっちの悩みなんか知らないくせにと心の中でつぶやき、むくれてそっぽを向いたところで背が、ばんと叩かれる。つい気を緩めてバリアを弱めていたユキトは、思わず大声を上げて紗季に目をむいた。

 

「イッてーな!」

「マジムカつく! 絶対やっつけてやる!」

「ちょ、キレんなよ!」

 

 矢をつがえる動作にユキトは慌てて駆け出し、2人は騒々しく言い合いながらそれぞれの波に交じってトレーニングを再開した。それを火花散らす刃、交錯する銃声が熱く猛るうねりの中でふっと耳にし、気が散った潤のマジックダガーが、ひらめく白刃にはじき飛ばされて地面にザクッと突き刺さった。

 

「すみません……」

 

 えんじ色のスカーフに抜き身の日本刀〈義平よしひら〉の切っ先を突きつけられ、潤は汗で艶めく黒髪を揺らして佐伯に白丸マーカーを浮かべた頭を下げた。

 

「気を散らしたことは問題だが――」

 

 赤丸マーカーが付いた佐伯は黒柄巻の義平を下げ、黒髪の乱れを手で整えるセーラーブレザー姿に眼光を和らげた。下えりが白の二枚襟タイプ黒ドレスシャツと黒ジャケット、チャコールグレーのノータック・スラックスに白の革靴というスタイルで日本刀を握る佐伯は、黒髪の坊主ヘアと相まってストイックなシークレット・サービスという表現が似合っていた。

 

「――君のセンスには光るものがあるな、加賀美潤」

「そんな……それほどではありません」

「謙遜することはない。君には和服が似合いそうな美しさがあるし、きっと素晴らしいヤマトナデシコになれるだろう」

「……ヤマトナデシコ……買いかぶり過ぎです……」

「慎み深いな」

 

 冬の陽のごとく微笑した佐伯は地面に突き刺さったマジックダガーのところへ歩いてそれを抜き、呪文が刻まれた諸刃を持って潤にひび割れがらつかを差し出した。

 

「君も斯波ユキトも、これからの日本に貢献できる人材だと思っている。磨けば、君たちはもっと輝けるだろう」

「あ、ありがとうございます……」

 

 恐縮して礼を言い、潤が白い両手で恭しくマジックダガーを受け取ったとき、甲高い嘲笑混じりの騒ぎ声が傍若無人ぼうじゃくぶじんに耳を打つ。佐伯と潤、近くで訓練に汗を流していた者たちの何事かという関心を集めた先では、4人の少年少女が白ジャケットにベージュのスラックス姿のか弱げな少年を罠にかかった草食動物をなぶるていで取り囲んでいた。