REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©NaG∀T∴

Mov.11 執着(1)

「――本当だ! このアプリ、リアルのテレビ番組を映している!」

 

 ユキトがまじろぎもせず見るタブレット大のテレビ型ウインドウ――アプリ〈リアルTV〉、あぐらをかいた体をこわばらせる少年の意思に従ってチャンネルが次々変わるそこでは、紛れもなく現実世界のドラマやドキュメンタリー、アニメなどが流れており、いくらか秩序が乱れた周囲でも少年少女たちが各々おのおのアプリ・ショップ〈あぷりこっと〉から購入したリアルTVを見ながら興奮をぶつけ合ってしぶきを飛ばし、一帯を時化しけの海さながらに荒れさせてた。

 

「ユキト、報道番組よ。報道番組を映して」

「あ、うん」

 

 左隣からのぞく潤に言われたユキトが一覧表示させた報道専門チャンネルの一つを選択すると、切り替わった画面――報道スタジオで深刻な表情のアナウンサーが、『アストラル大量消失事件』と表示された大型モニターをバックにしゃべっていた。

 

『――本日午後2時過ぎにワールドから忽然こつぜんと姿を消した人々の消息は、依然としてつかめないままです。警察は、何らかの事件に巻き込まれた可能性もあるとして、特別対策本部を設置して捜査に当たっていますが――』

 

 そして切り替わった画面では、アストラルが消失した現場――ショッピング・ゾーンやスクール・ゾーン、アミューズメント・ゾーン等――を映して目撃者のインタビューを流し、抜け殻になったリアルボディがあちこちの医療機関に搬送されていると伝えた。

 

「……やっぱり現実なのか、これ……」

 

 こみ上げる吐き気をこらえ、激しく揺れる焚き火を背に片膝を立て、今にも飛び込まんばかりにウインドウに食い入っている新田とその左斜め後ろに軽く腕組みをして立つ後藤アンジェラ、そして2人の頭上で光るワンを見るユキト。リアルTVの存在は、後藤がワンを聴取する中で知って新田に伝え、そばで話を聞いていた者たちからコネクトを通じて瞬く間に拡散したのだった。

 

(――現実……)

 

 自分たちが確かに行方不明になっていることを突き付けられ、ユキトは急にズンと重みを増した右腕――ナックル・ガントレットに隠された魔人の手を横目でこわごわうかがい、人知れず震わせた。己を密かにむしばむ呪いから目を背けると、焚き火に赤く照らされるジョアンが頭を抱え、紗季が家族のことを思ってべそをかくエリーを慰めているのが見えた。

 

「……ひどい顔ね……」

 

 潤がおぼれかけたような横顔に心を痛め、頬を伝う汗を白い指の背でそっと拭う。

 

(――――――――――――ッ!)

 

 その感触に刺激され、左に傾いた体がすがるように潤へ両腕を伸ばす。だが、抱き寄せようとする衝動は一転硬くなった肌にはじかれ、曲げた両手の盾に遮られた。

 

「……あ……」

 

 伏せた目に尖ったまつ毛をかぶせ、まるで理不尽な暴力から身を守ろうとするかのような少女の冷たく硬直した横顔にユキトはがく然とし、すぐさま体を離すとしどろもどろに謝罪した。

 

「ご、ごめん。驚かせて……その……」

 

 慰めが欲しかった――とは言えなかった。

 弱さを打ち明けることが関係を壊してしまう気がして口ごもり、組んだ足の上で左手と鋼の右手とが知恵の輪のごとく絡み、もがく。