REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©NaG∀T∴

Mov.10 薄闇の中で(3)

 焚き火が群れる遺構を歩いて明かりから離れ、薄闇に踏み入ったルルフは石垣に行き当たったところで振り返り、ヘブンズ・アイズで近くに人がいないことを確かめると、炎につどう小さな人影を肩の高さほどの石積みを背に眺め、声を潜めた。

 

「……ハイパーにスゴイじゃん、ミラ……!」

『――でしょ、でしょ! キャハキャハッ♪』

 

 パッと出現した3D映像の楕円だえん型ミラーが、ルルフの周りを妖精みたいに回転しながらくるくる飛び回る。ロココ調デザインのゴールドフレームで縦幅400×横幅300ミリのミラーの鏡面には、〈カリスマレベル〉というゲージが縦に伸びていた。

 

『――ジョアンにもらったポイントをチャージしたから、レベルがこれだけ上がったんだよ♪ キャハキャハ♪』

「だから、歌であれだけみんなを感動させられたんだね。他の人は見た目がノーマルなのに、あたしはかわいくデザられてるし。ずいぶんひいきにしてくれるじゃん、HALYって」

『キャハキャハ♪ ホントだね! キャハキャハッ♪』

「……それで……」

 

 ルルフは、鏡面のゲージに瞳をきらめかせた。レベルが上がったとはいっても目盛りはまだ一ケタ台だったが、かえってルルフは自分の可能性に心を躍らせた。

 

「……あんたにポイントをたくさんチャージすれば、もっとレベルアップするのよね……」

『そうそう♪ レベルが上がれば、ルルりんはもっともっともっともっともーっとハイパープリティになれるよっ♪ エンジェルどころかゴッデスにもなれて、みんなをとりこにできちゃうよ♪ キャハキャハキャハッ♪』

「……ふふふ、ポイントさえあれば、ルルはナンバーワンになれるんだね……アクターズスクールで邪魔者扱いされていたあたしが……! うふふふ……あはははは……!」

 

 斜め上に突き出した両手を薄闇で握り締め、くたびれたスニーカーで地面を何度も踏みつけて歓喜に震えるルルフは、血がのぼった顔をそらせ、どろどろ流動するはるか上空の黒雲を見つめて熱いため息を吐いた。

 

「……ああ、興奮で体がはじけちゃいそう!――ルルはやるわよ、ミラ!」

『イケイケ、ルルりんッ! キャハキャハキャハキャハキャハキャハキャハキャハキャハキャハキャハキャハッ♪』

 

 渦巻くように周囲をくるくる回るミラににやつき、ルルフは頭を振って暗色に染まったツインテールをたてがみのごとく揺らした。

 

「……問題は、どうやってポイントを手に入れるかよね。ルルは戦闘向きじゃないから、自分でモンスターを倒すのは無理だと思うし、やっぱり貢がせるしかないかな」

『ジョアンとかに貢がせればいいじゃん♪ みんなを夢中にさせて絞り取っちゃえ♪ キャハキャハッ♪』

「そうだね。それしかないもんね。それにしてもさ、こんなふうにハイパーな設定されているのって、ルル以外にもいるのかな?」

『それはミラには分かんなーい♪ HALYしか分かんなーいよっ♪ キャハキャハ♪』

「まぁいっか、他人ひとのことは。さて、どうやってみんなを取り込んでいこう――」

 

 腕組みして知恵を絞りかけたルルフは、急に目の前に開いて着信を知らせるコネクトにびっくりして垂れ目をぱっちりさせた。

 

「……ジョアンじゃない。心配でコネクトしてきたんだわ。――ミラ、あんたはバックに戻ってて」

『ハイハーイ、キャハキャハ♪』

 

 ミラをバックグラウンドにやって消し、天使の厚化粧をしてから応答すると、ウインドウに慌てた様子のジョアンが映る。

 

『あっ、ルルりん!』

「ごめんね、心配させちゃった?」

『もちろんだよ! of courseだけど、大変なんだ! ボクらのことが報道されてるんだよ!』

「報道? どういうこと?」

『televisionだよ!』

 

 真顔になったルルフに、ジョアンは顔をウインドウにぶつからんばかりに近付けて言い直した。

 

『――〈リアルTV〉ってアプリに映ってるんだ! ルルりんもすぐにこっち来て見てごらんよッ!』