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REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

Mov.9 赤い天の川(5)

 ポイントをすべて焚き火につぎ込んでも、1週間程度――

 それ以外のことに使えば、当然時間は短縮される――

 

 運命を知らされた少年少女はまごついた視線を交わし、助けを求めて周りに目を向けたが、辺りには傷付き、疲弊し切った姿が見えるばかり。

 

「……こんなんじゃ、どうにもならないわね……」

 

 つぶやくように言った紗季は、荒れた地べたや巨石の土台に座り込んだ若者たちの間を通って来るジョアンとルルフに気付き、力無く右手を振った。向日葵ひまわりを思わせる手を振り返したジョアンはひとり先に小走りで近付き、崩れた石壁を踏み越えて、南国の日差しのような笑顔でユキトたちの肩や腕を叩いて無事を喜んだ。

 

「――大したけがが無くて、relievedだよ。幸い死人は出なかったらしいけど、重傷を負った人は少なくないみたいだからさ」

「こっちこそ心配したわよ。クモバッタが降って来たとたんに逃げてっちゃうんだから」

 

 紗季が言うと、ツインテールを揺らしてジョアンの隣に立ったルルフが恥ずかしそうにうつむき、緩くうねって肩にかかるブロンドを右手でいじった。

 

「ごめんなさい、ちょっとパニくっちゃって……」

「しょうがないよ、ルルりん。monsterを見たら、逃げるのがnormalな女の子だよ」

「あのさ、それじゃ、あたしや加賀美さんはノーマルじゃないの?」

「い、いや、そうじゃないよ。――なあ、ユキト?」

「なっ、こっちに振るなよ!」

 

 ユキトは左右から潤と紗季に見つめられてうろたえ、奥二重の目を瞬かせた。ふと生じたたわむれは、モンスターの脅威や呪いの苦しみをしばし薄れさせた。

 

「それにしても……」

 

 ジョアンは頭を巡らし、方々から焚き火に照らされて薄い影を赤橙の地面に散らばす少年少女たちに表情を曇らせた。

 

「……みんなぼろぼろだよな。あっちの方じゃ、何十人も打ち上げられたfishみたいに横たわっているし……焚き火購入にポイントを使ったせいで、満足にポーションを買えない人もいるみたいだよ」

「そっか……よし!」うなずいた紗季が、真摯しんしな瞳で仲間たちを見る。「治してあげようよ。あたしたちで」

「ん? 治すってどうするんだい、サキ?」

「足りない人にポーションを買ってあげるの。これから助け合っていくんだし、痛い思いしているのを放っておけないじゃない。消耗してるけど、あたしももう少しくらいなら治癒魔法キュア・ブレス使えそうだよ。そういうのが無理になったら、せめてガーゼや包帯とか買って手当てだけでもさ」

「なるほど……OK、ボクも出せるだけ出すよ。――ルルりん、悪いんだけど、さっきポーションのお礼として渡したポイントから少し出してくれないかな?」

「えっ?……ごめん、もう全部使っちゃった……」

「Really? あれだけたくさん渡したのに、何に使っちゃったの?」

「……それはその、色々とね……」

「mysteriousだな~ でも、しょうがない。手当てを手伝ってくれるだけでいいよ。――ユキト、君たちも協力してくれるよな?」

「あ、う――」

 

 同意しかけたユキトは、ブレザーの左袖をグッと引っ張られて反射的に言葉を飲み込んだ。そして――

 

「私たちは、もう少しここで休ませてもらうわ。いいかしら?」

 

 取り澄ました潤の返答――有無を言わせぬ響きに沈黙のとばりが下り、数瞬後、ようやくジョアンが詰まっていた声を出す。

 

「う、うん、もちろんだよ。――じゃあ、ルルりん、サキ、行こうか」

「うん……じゃあ斯波、あたしたち先に行ってるね」

「ああ……」

 

 潤に左の袖をつままれたユキトはあいまいに答え、助けを必要としている者を探しに行く背中を、それに付いて行く光の球を見送った。

 

「流されちゃダメよ、ユキト」

 

 氷が張るような声にユキトはまぶたを上げ、左手に立つ少女を見た。火の粉舞わせる焚き火に横から照らされる潤は、離れていく背を冷たく見据える陰影の濃い横顔を見せていた。

 

「――またあの大群が襲って来るのなら、ポイントは武器やバリアの強化、ポーションなどの購入に当てるべきよ。生き延びたければ、まず自分のことを考えないと」

 

 潤は顔を斜に向け、切れ長の目でじっと見つめた。

 

「……冷たいと思う? 私のこと」

「いや……正しいと思うよ……ジョアンたちがやってくれれば、きっと十分だろうし……」

「そうね」

 

 潤は横にどけていた羊皮紙デザインのウインドウを目の前に滑らせ、3Dマップを拡大して新田や佐伯が大遺構前にいるのをあらためて確認すると、そこに行こうと誘った。

 

「――新田さんたちなら、きっとこれからのことを考えているはずよ。それを確かめてからポイントをどう使うか決めましょう」

「……そうだね……」

 

 潤に左腕を軽く押されてユキトは歩き出し、紗季たちの位置をヘブンズ・アイズで気にしながら負傷者たちをなるべく視界に入れないようにして大遺構前に向かった。

 たくさんの炎が揺れる外側には、まだよいの口ながら圧倒的な闇が静かに取り巻いていた。