REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©NaG∀T∴

Mov.9 赤い天の川(3)

「――ぜやアッッ!」

 

 突き出した新田の両手がスパークし、宙を切り裂く稲妻が汚い血液と肉片、外骨格の欠片を散り散りに飛ばす。四方から闇を震わせて飛来し、二足歩行で前のめりに突進して来るテラ・イセクを片端から爆散させる雷系魔法〈サンダーボルト〉――汗の粒を飛ばして奮戦する新田の10メートル弱後方、井桁型に組まれてばちばち燃える薪のそばには、今にも気を失いそうな顔でガタガタ震える葉エリーたち数名の少年少女が身を寄せ合っていた。

 

「――はぁ、はぁ……数が、多過ぎる……くっ……!」

 

 右手の甲で額と苦しげな眉の汗を拭い、新田はあえぎながら振り返った。戦闘能力が極めて低い彼女たちは、すくみ上がったことで守られるだけの存在になり下がっていた。

 

(……この子たちは、どうにか守れるかもしれない。でも――)

 

 焚き火の明かりがどうにか及ぶ大遺構前広場では、勇気ある者たちが武器を振るい、魔法を駆使して押し寄せる大群相手に光のちりの波頭を砕き続けていたが、その外側――ぼろぼろの歯列のように崩れた石壁の向こうの闇では、まるで四肢を貪り食われてでもいるかのような悲鳴がひっきりなしに響いていた。

 

(……このままじゃ、あの子たちは……俺たちだって、いつまで持つか――)

「――に、新田さん、上ッ!」

 

 エリーの叫び――急降下する尖爪に胸を切られながらかわし、新田は怪虫の横っ腹に光熱系魔法――3号ボール大の光熱弾〈フォトンブレイク〉を食らわせた。そして、節足と胴を半分近く吹き飛ばされながらも立ち上がろうとする相手にもう一撃加えてとどめを刺すと、ガクッと崩れて地面に右手、右膝を付いた。

 

(……パワーが落ちている。バリアも……)

「――あ、あ、きっ、傷が!」

 

 慌てて駆け寄ったエリーが前に回って青い瓶を振ると、胸にかかった光の粒子がドレスシャツの裂け目を修復して飛ばされたボタンを復元させ、裂傷をたちまち治して血の汚れを消し去った。

 

「――この程度の傷でポーションを使っちゃダメだ! モンスターは、まだたくさんいるんだよッ!」

「あっ、すっ、すみません……」

 

 かみなりに打たれたように震え、エリーは消えていく空の青い瓶を握った右手を垂らし、涙ぐんでうつむいた。それを見た新田は我に返って立ち上がり、背筋を伸ばして少女のきゃしゃな左肩に努めて優しく右手を置いた。

 

「ごめん、エリーちゃん。ありがたいけど、もうちょっとやられてからでいいからね」

「は、はい、すみませんでした……」

「いいんだよ。――危ない、下がってッ!」

 

 エリーを焚き火のそばに逃がし、左右から挟撃するモンスターに炸裂して外骨格と血肉を飛び散らせるサンダーボルト――だが、疲労で威力が落ちた稲妻は片割れに致命傷を与えられず、新田は左側からライオン大の巨体に激突されて吹っ飛び、ドッと地面に倒れて転がった。

 

「――ぐああッッ!」

「あっ! ああっ、新田さ――」

 

 悲鳴を上げるエリーの視界でのしかかられた新田が爪でバリアを破られ、ストライプ柄のドレスシャツを裂かれて血をにじませたとき、唾液滴る牙をうごめかせ、六つの単眼をぎらつかせていた醜貌しゅうぼうが左から幅広の両刃にズグッと突き刺され、ロングソードと一体のアサルトライフルが銃弾をダダダダダッッと連射して血やら脳漿のうしょうやらを花火のごとく飛び散らせた。

 

「……あ、ありがとう、後藤さん……」

 

 脇に立つ、焚き火の明かりで映える赤毛のサイドポニーテールを左胸にかけたメガネ女子――立ちのぼる光のちりを払い、礼を言って立ち上がる新田をブラックメタルフレームのメガネ越しに見て、後藤は銃剣ベヨネッタを振ってヘドロ状の血を払い、すらっと撫で切るような視線を巡らせてアナリストを思わせる口調で言った。

 

「形勢は著しく不利ですよ。先程ワンに確認したところでは、重傷者数が3ケタに近付いているそうです」

「こっちの言うことを聞かないからだ!」新田は、怒りをぶちまけた。「暗闇に逃げたら危ないって言ってるのにッ!」

 

 アップバングの黒髪を両手でガッとかき上げ、乱暴に後ろへ撫で付ける新田を後藤は黙って見、ヘブンズ・アイズで若者たちの現在位置を確認した。闇へと逃げ出した者たちは言うに及ばず、踏みとどまって迎え撃っていた者たちもだんだん分断され、焚き火から離れて薄闇へ、暗闇へと追いやられて苦戦を強いられていた。

 

「戦えるのは、私たちだけですから――」後藤は、焚き火を背に黒ずんだ顔でおののくエリーたちにちらっと目をやり、「私たちでモンスターを全滅させるか、追い払うしかありません」と言って、上空の赤い銀河から降下するテラ・イセクたちにベヨネッタの銃口を向けた。

「――そうは言ってもっ!」

 

 フルオート射撃し、排莢の高速ビートを刻む後藤の横で新田は両手に光をたぎらせ、空と地上から群がる怪虫に光熱弾を連射したが、体力、気力の消耗により威力が低下しているせいで仕留め切れず、かみつかれそうになったところを後藤の銃撃に助けられた。

 

「――すまないっ!」

「気を抜くと、バリアも弱くなってしまいます。踏ん張って下さい。――」

 

 連射が尖った爪を生やす第一脚を吹っ飛ばして赤い単眼輝く頭部を穴だらけにし、腰を入れて突き出された両刃が外骨格を貫いて腹部をグジャッとえぐる。ターンする背後を立ちのぼる粒子できらめかせ、後藤は迫る標的を次々銃撃し、サイドポニーテールを跳ねさせながら鮮やかに、そしてモデル並みの美貌には似つかわしくない苛烈さを垣間見せながら斬り捨てていったが、その動きにキレが無いのを見て取った新田は焦りの色を濃くした。

 

(――このままじゃ……! また、スペシャル・スキルを使うしかないのか……だけどッ!――)

 

 新田は正面から突撃して来た個体を光のちりにし、モンスターの位置を確かめようとヘブンズ・アイズをにらんだところで急にグッと怪訝そうに眉根を寄せ、それからはるか頭上の赤い銀河や周囲の薄闇で繰り広げられている戦闘、焚き火のそばに固まるエリーたちを素早く見て3Dマップに目を戻した。

 

「……これって、もしかして……」

「どうかしたのですか?」

「……ちょっと試してみたいことがある! 後藤さん、エリーちゃんたちを頼むっ!――」

 

 言うや新田はライトンを起動させて走り出し、斜めから飛びかかるのをかわし、行く手を阻む影にフォトンブレイクをぶちかまして光のちりの中を突っ切ると、戦いの間を抜けて広場を囲む崩れた壁を飛び越えた。そこまで来ると体はすっかり闇に飲まれ、焚き火は後方に小さく見えるばかり。視界が利かない新田がヘブンズ・アイズで近くの赤い光点を確認して光るブタ鼻をそちらに向けると、コネクトのウインドウが開いて胸が張り裂けんばかりの顔をしたエリーが不安をあふれさせた。

 

『新田さん、何をするつもりなんですか? モ、モンスターが近付いていますよっ!』

「分かってるよッ!」

 

 四方で急激に大きくなる羽音――鼓動を加速させる新田は、走りながらスタートアップさせていたStoreZ――マスコットキャラのミセっちに急き込んで要求した。

 

『はぁ~……ホントにまたこれ買うの?』

「今すぐ必要なんだ! 早くしてくれッ!」

『分かったわよ。案外短気なんだから。お買い上げ、どーも』

 

 ミセっちがため息をつくと、新田の所有ポイントが減ってイジゲンポケットに購入した物が納品される。先を争って飛びかかろうとする気配より早く、新田は怖気を抑えながら購入品を目の前にドンッと出現させた。

 キャンプファイヤー用焚き火セット――

 井桁型に組まれた薪から炎が天に昇らんばかりに上がり、辺りを赤々と照らして闇を打ち消す。その大胆不敵な熱と光に、新田を引き裂こうとしていた怪虫等は慌てた様子で焚き火を避け、近くに着地すると一定の距離を保ってがさごそ動いた。

 

「やっぱりか……!――おい、みんなッ!」

 

 新田は、コネクトで全員に呼びかけた。

 

「――こいつら、炎を嫌っている! だから、俺たちを焚き火から離して闇に追いやっているんだ! ポイントを出し合ってでも、たくさん買って設置するんだッ!」

 

 それはマップ上で赤い光点が焚き火の近くには少なく、遠ざかるほど数を増して活発に動き回っているのを見て浮かんだ推測が確信に変わった瞬間だった。指示を受け、ミセっちのため息があちこちから聞こえて辺りの暗闇が炎に少しずつ圧倒されていくと、地上を這い、二足歩行で不格好に駆けていたテラ・イセクたちが少しずつ暗い空に飛び上がり始める。

 

「――これならっ!」

 

 焚き火を背にした新田は、捨て身の勢いで突っ込んで来る怪虫にサンダーボルトを見舞い、羽ばたいて旋回する個体をフォトンブレイクで撃ち落としながらコネクトで励まし、それに鼓舞された若者たちは残った力を振り絞って刃を振るい、トリガーを引き、魔法を放って戦い続けた。やがて、テラ・イセクは光のちりになるか飛び立って上昇するかで付近から姿を消し、しばらくの間、遺跡上空を旋回して赤い星の渦を形作っていたが、やがてどぶねずみ色の雲がたゆたう夜空を北へ流れて消えていった――