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REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

Mov.8 テンペスト2.0(4)

「プロフに目を通している人も多いだろうけど、あらためて自己紹介をさせてもらいます。――」

 

 名乗った新田はワールドで商談中に強制転送されたと語り、これまで聞き取りしたところによると、ここにいる10代から20代の若者は同時刻に日本エリアから強制転送されたようだと言った。

 

「――ここはアストラルが傷付かないように設定されているまともなゲーム・ゾーンとは違う、非常に危険な世界だ。どうやったらここから出られるのか、ワンを何度も問いただしたが……」

 

 新田は張り詰めた顔を赤く照らされる若者たちの頭上――もやのような雲に封じられた夜空をバックに浮かぶワンをにらんで言葉を切り、視線を下に戻して話を続けた。

 

「……しかし、いくら聞いても『無い』と繰り返すばかり。誰か、どんなことでもいいから、何か気付いたことはないか?」

 

 問いかけに群れはざわつき、ユキトたちは顔を見合わせた。

 

「おい、サキ、what do you know?」

「知らないわよ。――斯波は?」

「そんなことを聞かれても分からないわよね、ユキト?」

「うん……」

 

 何かがずっと引っかかっているユキトの横で遠慮がちに紫ジャージの腕が上がり、挙手したルルフが衆目を集める。

 

「ええと……」新田はアドレスブックをチェックし、指差した。「高峰ルルフさん、何かある?」

「はい……ルルたちをここに強制転送させたのは、HALYってALなんですよね? うろ覚えなんですけど、テンペスト事件を起こしたALって、そんな名前じゃなかったでしたっけ……?」

 

 テンペスト事件――波紋はすぐさまどよめきの波に変わり、ユキトは海霧が晴れたような顔を左隣の潤に向けた。

 

「そうか! テンペスト事件を起こしたALの名前、そんなだったっけ……!」

「テンペスト事件って、2年前に起きたあれよね? テンペストってSRGゲームを管理していたALが狂った……」

「そう! 保護設定が変えられ、モンスターに襲われたアストラルがダメージを受けて精神に障害を負う人がたくさん出た、あの事件だよっ!」

 

 当時、世間をそれなりに震撼させた事件だったが、ALの名前まで報道することが少なかったことと、その後に起きた様々な大事件、大事故のニュースに押し流されたため、今日人々の記憶にはほとんど残っていなかった。動揺し、不安定に波立つ群れ――その中心でルルフは唇を軽くなめ、背筋を伸ばしてよく通る甘い声を弾ませた。

 

「ルル、ちょっとだけプレイしたことがあるんです。空間は流れたりしなかったし、ポイントとかアプリとかってシステムも無かったですけど、モンスターのデザインは似てるかなって思います」

「へぇ、ルルりん、ゲームとかplayするんだ?」

「ちょっとだけだよ。ルルの趣味は、お菓子作りとかアンティーク・ショップ通いとかだから」

「そんなことより――」紗季が、浮かれ気味のルルフとジョアンをじろっと見る。「そのAL、ゲームと一緒にデリートされたんじゃなかった?」

「どうなんだ、ワン」腕組みをした佐伯が、新田の右隣からまなざしで刺す。「このゾーンは、テンペストと関係があるのか?」

『ございます。HALYはテンペストの元・管理者。このゾーンは、デリートを逃れたHALYがテンペストのデータをベースに造ったニューワールド〈テンペスト2.0〉です』

「テンペスト2.0……!」

 

 新田が右手の平で額をググッ……とこすり、アップバングの髪を前から後ろに強く撫で付ける。

 

「……それで、このゲームのクリア条件は何なんだ? どうすれば、このゾーンから出られるんだ?」

『何度も申し上げておりますように、このゾーンから出る方法は今のところございません。あなた方には、ずっとここで暮らしていただきます』

 

 ――ふっざけんなよッ! こんなところ、もう耐えられないんだよッ!――

 ――家に帰らせてよッ! みんなに会わせてェッ!――

 ――このままじゃ、リアルボディは抜け殻のままじゃないのッ! 何かされたらどうすんのォッ!――

 

 木で鼻をくくった物言いが暴発を呼び、ヒステリックな嘆きと怒りの火球がユキトたちの周りから次々投げつけられたが、ワンはすげなくきらめいて現実世界のことは忘れてしまうようにと返したので、燃料を投下された若者たちは焚き火のそれをしのぐ激情の炎を噴き上げ、火の粉をまき散らしてもだえさせた。