REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

Mov.8 テンペスト2.0(1)

 夜の灰汁あくのごとき雲がたゆたうはるか下――うごめく闇を進む数多の光の筋がはかなげに、不安げに揺らめく。先導する新田たち、その後におっかなびっくり続く一群が呼びかけに応じた者たちを加えながら黒い海原――草原を歩き、底意地悪く起伏する丘陵をいくつか越えると、いかにも人工的な台地のシルエットがゆらあっと浮かび、その前に身を寄せ合うぼやけた光の集まりが見えた。

 その光へ逃げ込むように急ぎ、這いずる草を踏み続けると、水中を歩いているのに似た感覚が徐々に薄れ、テーブルマウンテン状にそびえる巨影に近付くほど感じられなくなった。集団の上で小さな満月のごとく光るワンが言った通り、この辺りは流動の影響を受けないパワースポットらしかった。

 やがて待ち兼ねていたグループと合流した若者たちは、間近から要塞のごとき威容――ビル5,6階ほどの高さ、粗削りでごつごつした巨石が雑に積み重ねられた石垣を見上げて圧倒され、波打つようにゆがんだ不ぞろいの石段が伸びる先、石垣の上でよどんでいる闇をうかがって身震いした。そして、しばらくの逡巡ののち、新田や佐伯がヘブンズ・アイズ上にモンスター反応が無いことを確かめながら石段を慎重にのぼり、しばらくして危険は無さそうだというコネクトを受けた待機者たちがぞろぞろ続く。その流れに連なり、つないだ手を暗闇に紛れさせながら石段に近付くユキトと潤は、StoreZのアプリショップ〈あぷりこっと〉から購入したライトンの光るブタ鼻を石垣に向け、その巨大さに感嘆した。

 

「……ホントにでかいな……世界史の授業のとき、ワールドで古代ギリシャの遺跡を見学したのを思い出すよ……」

「そうね」潤がうなずく。「ミケーネ文明の遺跡に、どことなく似ているわね」

 

 か細い光を当てられる石垣、それはあちこち崩れ、ひどいところだと土砂崩れを起こしたように巨石を荒野にぶちまけて斜面を作っていた。

 

「ほわぁ、いしのおしろみたいやわ」

 

 ぽんと背中にぶつかった声にユキトはハッと振り返り、自分たちに続く若者たち越しにジュリア、そしてその隣の紗季に気付くと、潤と視線を交わしてつないでいた手を放した。紗季の方は暗さと間に人がいたので手には気付いておらず、はにかんだユキトと目が合うと小首をかしげ、ジュリアを連れて人の間を縫って来た。

 

「――どうかしたの、斯波? 変な顔して」

「へ、変な顔なんかしてないよ! そ、それより、ヘブンズ・アイズで見ると、この遺跡ずいぶん広いみたいだよな」

「ん? まあね」

 

 紗季は、ほとんど未踏ゆえに遺跡の大部分があいまいに表示されるマップを見た。

 

「――確かに大きな町の二つ三つ、すっぽり入っちゃいそうよね」

「あのいし、ぜーんぶおかしやったらええのに」ジュリアが無邪気に願う。「うち、おなかすいたわ~」

「あたしもだよ。落ち着いたらStoreZで何か買って食べようね」

 

 姉のように振る舞う紗季――それを潤が自分の黒髪と右肩越しに一瞥する。群れに流されるユキトは紗季たちと歩を進め、前に続いてでこぼこした石段を一段一段数えながら踏み、百数十カウントしてようやくのぼり切ると、そこには無残に崩れた石造りの建物や土台――津波に襲われでもしたかのような遺構が闇の底に沈んでいた。先に到着していた者たちは、枯草の上にごろごろ転がっているコンクリートブロックよりも大きな石や微妙にくねった組積造の遺構をライトンで照らしたり、ひずんだ巨石の土台に腰を下ろして休んだりしていて、さながら観光地にやって来た団体客のようだった。