REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

Mov.7 合流(5)

「あ、あの、新田さん」後ろからエリーが遠慮がちに呼ぶ。「こっちに向かっていたグループからの連絡で……」

「ん? どうかしたのかい?」

「その、ここから南西の方に遺跡みたいなものを発見したそうです……」

「遺跡?」

 

 新田はコネクトで遺跡のことを知らせてきたグループと連絡を取り、ヘブンズ・アイズをチェックした。すると、ついさっきまでマップ上ではただの平地だった場所にひょうたん型をした巨石積みの遺跡が表示されていた。マップデータ更新はアドレスブック相互登録で新田やエリーとつながっている者たちのところでも起こり、若者たちはそれぞれヘブンズ・アイズを開いて遺跡とやらを確かめた。

 

「……結構広いな」新田が自分のあごを右手で撫でる。「町が二つ三つ収まりそうだ……モンスターの反応は無いみたいだけど……――ワン、ここはどういう場所なんだ?」

 

 上空に浮かんでいたワンがひゅうっと新田の頭上に滑って来て、そこはコンコルディという古代の丘砦きゅうさい跡だと教えた。

『――コンコルディ遺跡は、〈フェイス・スポット〉上にあります。休息にはもってこいでしょう』

「フェイス・スポット?」

『流動の影響を受けにくい特別な場のことです。こうした場所は、あちこちにあります』

「質問!」紗季が、勢いよく挙手する。「この遺跡、罠とかあるんじゃないでしょうね?」

「確かに……」ジョアンが腕組みし、ルルフの隣でウンウンうなずく。「この手のゲームって、遺跡にボスモンスターがいたりtrapが仕掛けてあったりするもんな」

『それに関しては、お答え致しかねます』

「またそれか。ホンット、spiteだな」

「静かに! みんな、聞いてくれ!」

 

 新田が両手を上げてパンパンと叩き、ざわめきを静める。

 

「――後藤さんが言うように、ここで夜を過ごすのはハイリスクだと思う。他のグループとの合流も兼ねて行ってみようじゃないか。これだけ数がいれば、何かあったとしても協力して乗り切れるはずだ」

 

 異論を唱える者はいなかった。一番の年長で社会人でもあること、妥当な考えだと思えること、そして先の見えない不安が誰かに頼りたい気持ちを強くさせていた。

 

「――よし、決まりだ。――エリーちゃん、まだ合流していない人たちへのコールは続けているよね?」

「は、はい、やっています」

「ありがとう。――みんなも継続してくれているね?」

 

 問いに、「もちろん」とか「続けているよ」といった答えがあちこちから返る。シンのことで一悶着している間もコネクトは作成されたメッセージをバック・グラウンドで繰り返し発信し、キャッチした相手からの返信をメッセージ・ボックスにためていた。新田は遺跡への移動をメッセージに付け加えるよう指示すると、起動したライトンのブタ鼻を点灯させ、薄闇に光の筋を伸ばしながら先頭に立って引率し始めた。若者たちは彼に倣ってライトンを点灯させ、後に付いて夜陰に染められながら気まぐれに流れる空間をぞろぞろ歩いた。紗季はジュリアを立たせて背中を押している間に、ジョアンはルルフにくっ付いているうちに人の流れに隔てられ、潤と並んで半ば無意識に歩くユキトから離れてしまった。

 

「頼りになるわね、新田さんて」

「え?……」

 

 突然の感想に疲労で頭が鈍っていたユキトは言葉が見つからず、もさもさ反芻はんすうするうちに自分が比べられていると感じて苦みを覚えた。

 

「……ああ、そうだね」

 

 ふてくされた心情がにじむ声を聞き、潤はユキトの左手の甲にそっと右手の指を触れさせた。

 

「潤……?」

「……握ってもらってもいい?」

「う、うん、もちろんだけど……」

「……不安なの……」

 

 ライトンの光が無ければ飲み込まれ、さらわれてしまいそうな薄闇の流れにさみしげな目を沈め、潤は胸のスカーフやミニスカートの裾を揺らしながらつぶやくように言った。そのはかなげな横顔と、求める指の冷たさにほだされ、ユキトは手を握った。

 

「……僕が握っていてあげるよ。どこにも流されないように」

「ありがとう……ユキトだってなれるわよ。新田さんみたいに」

「そ、そうかな……」

「そうよ」

「……そうだね。やってみるよ、僕」

 

 白い蛇にも見える指を絡めた潤に、ユキトは自分を必要としている少女を守れるよう、そして恐ろしい呪いから逃れられるようにと密かに切望した。




【――私たちは、コンコルディ遺跡へ移動を始めました。新田さんを先頭に、佐伯さん、後藤さん、篠沢さん、ジュリアちゃん……そして、みんなから少し離れてシン・リュソンさんも付いて来てくれました。こうしてそろったのです。過酷な運命の交響曲シンフォニーを奏でる主要メンバーが……――】