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REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

Mov.5 激闘(2)

「君たち、下がっていろ」

 

 振り返って声をかける青年は前髪を上げたアップバング・スタイルのイケメンで、顔付きからすると20代半ばくらいのようだった。彼はシルバーの腕時計をはめた右手を上げて紗季とジョアンにも下がっているように指示すると、ボウズヘアの剣士に勇ましく叫んだ。

 

「やるぞ、佐伯君ッ!」

「――はァッッ!」

 

 雄々しい気合を爆発させる青年――佐伯が、黒ジャケットの裾をサラブレッドのごとく躍らせて白刃をひらめかせ、猛る手負いのグリゴ・デオのかぎ爪と火花を散らす。体高3メートル台の巨体が風圧とともに繰り出す重い攻撃をしのぎ、疾風迅雷の動きとともに外骨格に覆われた指を切断して筋肉の装甲を縦横に斬り付ける剣は、まさに剛剣と呼ぶにふさわしかった。

 

「……すごい……」

 

 感嘆したユキトは、ビジネスマン風青年が袖まくりした両手を前に突き出し、手の平からソフトボールで使われるボール大の光熱弾を連射してグリゴ・デオたちの角を吹っ飛ばし、肉片と濁った鮮血を飛び散らせる光景にも目を見張った。

 

「強いわね……」

 

 斜め後ろに立つ潤の感想に、ユキトは唇を結んだままうなった。離れたところにいる紗季とジョアンが奮戦する年上の青年たちにエールを送っているのが目に入る。デモニック・バーストというスペシャル・スキルを使ってパワーアップした自分を超える力を見せられ、頭の中で憧れと嫉妬が入り混じって渦巻いた。

 

「――だけど、倒れないわよ。あの怪物たち!」

 

 潤が言うように斬撃や稲妻と光熱弾の魔法攻撃は致命傷を与えるまでには至っておらず、傷付くほど怪物たちは猛り狂って2人を襲った。生き残って立ちすくんでいた木の幹が伸びた指のかぎ爪にえぐられ、勢い余った巨体とぶつかってへし折れる。燃える火薬庫のような暴れっぷりに青年コンビは苦戦を強いられ、ユキトたちは巻き添えを恐れて木々を避けながらさらに下がった。

 

「――あっ!」

 

 潤の動揺がユキトの耳朶じだを打ち、体を揺らがせる。甲殻を割られ、右前腕に深手を負った個体が怒り狂って猛進し、佐伯にかわされてもなおスピードを緩めずに木々をなぎ倒しながらユキトたちの方に突っ込んで来る。

 

(――く、来るのかッ!)

「――やめろォッッ!」

 

 ビジネスマン風青年の叫びがとどろき、弱く光る鋼の右こぶしをこわばらせたユキトの目が不意の輝きでくらんだ直後、ドラゴンのような稲妻が暴走する巨体の左胸から上腕を左斜め後ろから食い千切って血肉を飛び散らせる。左腕の残りをドッと落とした怪物はよろめきながら横にそれ、木を押し倒しながら崩れた巨体が光のちりを立ちのぼらせて消滅していく。

 

(……光が……)

 

 ビジネスマン風青年の両目――虹彩が金色に輝き、全身から光のオーラが燃え上がっていた。己の存在そのものを燃焼させるかのごときすさまじさ――そのせいか焦燥の影を目元ににじませた青年は、横手から飛びかかる巨獣に二回りほど大きさを増した光熱弾の連射を叩き込んで反った角を、とげを生やして硬く盛り上がった筋肉の甲冑をどんどん破壊し、クレーターだらけになった巨体を仰向けに倒して消滅させた。

 

(――あれだけ苦戦していたモンスターを……!――んッ?)

 

 息を詰まらせる潤に気付いたユキトは、前のめりの巨体の懐に急加速して飛び込んだ佐伯が刀を一息に突き上げ、怪物の喉を深々と刺す一部始終を目撃した。仲間がやられてたじろいだ隙を突いた佐伯は刃を一気に引き抜き、噴き出るヘドロ色の血をバリアではじきながら横に飛びのき――

 

「――ぜやァアアアアッッッ!」

 

 猛虎の咆哮のごとき気合がとどろき、大上段に振りかぶられた日本刀がおぼれたように鳴きながら前に崩れる怪物の首を一気に斬る。頸椎けいついを断たれ、首の皮一枚にされたグリゴ・デオは重い頭部をぐらりと傾け、光のちりになって仲間の後を追った。

 

『グリゴ・デオ3体、消滅しました』

 

 空中からワンが事務的に告げる。

 

『――戦闘への貢献度に応じて獲得したポイントは、新田公仁きみひと90000ポイント、佐伯修爾しゅうじ45000ポイント、斯波ユキト700ポイントになります。それ以外の方々は、パーソナル・インフォメーションの所有ポイントを開いてご確認下さい』

 

 ワンを冷ややかに一瞥した佐伯は熱い息を吐いてびゅっと血振りをし、黒柄巻の日本刀をイジゲンポケットにしまって消すと汗ばんだ顔を横に向け、少し離れて独りうつむき、右手で額を押さえる光が消えた新田に歩み寄った。

 

「大丈夫ですか、新田さん?」

「あ、いや、少し疲れただけさ。まったく、スペシャル・スキルってのはマジで消耗するな……」

「戦闘続きですし、無理もありません。そのスペシャル・スキルにまた助けられた自分の不甲斐なさを申し訳なく思います」

 

 慇懃いんぎんに頭を下げる佐伯に微笑した新田は汗を拭って額から手を離し、ユキトたちに歩みながら薬指で指輪が光る左手を上げて紗季とジョアンを呼んだ。