REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

Mov.5 激闘(1)

「――うッオオオオオオオオオオォッッッ!」

 

 激発したユキトは正面に飛び、左斜め上から襲うかぎ爪を紙一重でかわすと、目の高さ――鎧のような下腹部に光る鋼の一撃を再び叩き込んだ。爆発に似た衝撃がナックルダスターからガントレットを装着したこぶし、前腕――と響き、左肩に矢が突き刺さった小山のような巨体がうめきながら2,3歩後退する。

 

「どうだッ!」

 

 吠えるユキトの左から突風がぶつかり、鉄槌さながらのひづめが新幹線並みのスピードで襲いかかる。反射的に鋼の右前腕でガードしたユキトは吹っ飛んで倒木に背中を打ち付けたが、振り下ろされるかぎ爪を素早く横に避けて飛びのくと、正面と左右からゆらゆら間合いを狭める3体の巨獣に光を帯びる鋼の右こぶしを突き出した。強烈な蹴りを受けはしたが、ナックル・ガントレットにひびやゆがみは見当たらず、内部の右前腕も鈍い痛みが残っているくらいだった。

 

「バリアの強度も上がっているのか……よしッ!」

 

 ユキトは正面から伸びて飛んできた複数のかぎ爪を力任せにはじき、右から迫る暴走トラック顔負けの突進をかわすと、巨体の間をすり抜けて倒れている潤に駆け寄った。

 

「加賀美さんッ!」

「……し、斯波君……――あッ!」

 

 ひづめの怒涛――そして、助け起こした潤の叫びに振り返ると、かぎ爪で獲物を引き裂こうとするグリゴ・デオの潰れた鼻先を白い羽根の矢がかすめる。それは、ジョアンをキュア・ブレスで癒していた紗季が放ったものだった。

 

「――こいつッッ!」

 

 ひるんだモンスターの左脇腹に右フックをドンッと食らわせ、潤に下がるよう指示しながら左右の連打でユキトはたたみかけ――

 

「――ぅぼォッッ!」

 

 左脇腹に炸裂した衝撃が視界をひしゃげさせ、ひん曲がった体が一瞬宙に浮いてからおぼつかない足取りで横によろめき、腰が砕けたように崩れてドタッと尻もちをつく。左腹を押さえてあえぐユキトのまつ毛が瞬き、あふれる涙で濡れた。

 

「……ぐ、ぉお……――!」

 

 右と背後からのかぎ爪にブレザーごと肉をえぐられ、ひづめで腹を蹴り上げられたユキトはもんどりを打って踏み荒らされた下生えの上に叩き付けられた。グリゴ・デオたちは外側から矢や氷柱を飛ばす紗季と潤をアナコンダみたいに伸びた指でうるさそうにはじき、先程よりも俊敏な動きで三方から獲物をなぶる。

 

「――こいつら、本気を出してきたのか!――ぐォッ!」

 

 甲殻が固める右前腕にずたぼろの姿が払い飛ばされ、中程から無残に折れた木を背にする潤の前まで下生えを巻き添えにしながら転がる。

 

「斯波君!」

「……へ、平気だ、よ……」

 

 半ば意識もうろうとしたユキトは握った草を千切り、汗が滴った土に爪を食い込ませて煙のように立ち上がった。オーバーヒート気味の心肺が熱くあえぎ、視界が、五体が陽炎のように揺らめいて流動にさらわれそうになる。数歩後ろには傷付き、汚れた胸の前でマジックダガーの柄を握り締める潤、右前方には膝を突いたままのジョアンと洋弓を構える紗季が小さく見え、空中ではワンが争いとは無縁に浮かんでいる。

 

「……パワーアップしたのに……!」

 

 扇状に広がって接近する3体にユキトは目を右往左往させ、仰いでワンにすがらせた。

 

『斯波ユキト、確かにあなたの戦闘スキルは一時的に上昇していますが、グリゴ・デオ3体相手は荷が重過ぎます』

「く……!」

 

 まだ加勢できるほど回復していないジョアンはもちろん、紗季と潤の攻撃も軽傷しか負わせられていない。曲がりなりにも戦力と呼べるのは自分だけだった。

 

 (……ど、どうすれば……僕がこいつらを足止めして加賀美さんたちを……だけど、それじゃ……それとも、僕だけ――)

 

 煩悶するユキトの耳に潤の悲鳴が響き、巨獣たちの大波が猛然と迫る。

 

(――ぼっ、僕はまだ――)

 

 圧倒され、思わず腰を引くユキト――その瞬間、辺りがカッと輝き、空間を横切る数条の稲妻が右側からユキトを襲おうとしていたグリゴ・デオの左肩を直撃して火花を噴かせ、空間が砕けたような雷鳴をとどろかせる。突然の大音響に硬直するユキトたちの視界で半分吹き飛んだ左肩からヘドロ色の血液をまき散らす個体が横にぐらつき、他の2体の動きを止めて向きを変える。

 

「……雷?――」

 

 閃光でくらんだ目を瞬くユキトは、雷撃を食らったグリゴ・デオの懐に疾風の如く走り込んだ影が逆袈裟けさに光を走らせるのを見た。そのひらめき――抜き身の日本刀の斬撃は、とげが吹き出物状に生える怪物の右脇腹から左胸を斬って汚い血を飛び散らせ、返す刀がもう一筋の裂け目を添わせる。雷撃で左肩をえぐられ、さらに決して浅くない傷を負ってグォオオッと吠え猛る個体と対峙し、白い革のメンズシューズで流れを踏み締めて日本刀を正眼せいがんに構えながら猛禽もうきん類系のまなざしで他の2体をけん制する、ストイックな印象のボウズヘア、黒ジャケットとチャコールグレーのノータック・スラックスの精悍せいかんな大学生風青年――そして、ユキトと潤の前にオフィス街から抜け出して来たような格好――肘の下まで袖がまくられたストライプ柄のドゥエボットーニ・ドレスシャツ、ブラウンのレザーベルトが締める黒のスラックス、黒革のビジネスシューズ――の青年が入って盾になる。