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REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

Mov.4 あがき(3)

(――あッ、ぅああッ――)

 

 絶望で見開かれる目――と、振り下ろされかけた灰色の右腕に炎の塊がボウッと特攻し、巨体を僅かに揺らした。

 

「――ジ、ジョア、ン……!」

「へっ、どうだい、ボクのflameはっ!……」

 

 膝立ちのジョアンが包囲の外で苦しげに微笑し、再び両手の中で炎を生成するが、それを投げつけるより早く紗季を引きずる個体が先ほどの火傷の仕返しとばかりに脇から蹴りつけ、ラクビーボールのように飛ばして転がした。

 

「ジョアン!――ぐ、くッ……!」

 

 全身半ば麻痺した動きで立ち上がろうとするユキトにかぎ爪の指がグルグルッと巻き付いて緊縛し、引っ張って足をもつれさせる。怪物の前まで引きずられ、つま先立ちにされたユキトは、ブレザーやワイシャツ等を切り裂いて背中や脇腹、太ももに食い込む切っ先にうめきを千切れさせた。

 

「――ぐォあがァァァッッ……――うばァッ!」

 

 髪がめちゃくちゃになった前頭部の間近で裂けた口がばっくり開き、鼻がひん曲がりそうな臭い息がぶわっとかかる。顔を背けて必死にもがくユキトだったが、外骨格が覆う指は獲物の骨を粉々にしようとさらに強い力で締め付けた。

 

「――ぐギャアががガアあッッッ!――な、なゼ、ごッ、ごンなァ――オゴギャアアアアアアアッッッッッッ―――!」



 ――〈デモン・カーズ〉、発動しました。〈デモニック・バースト〉使用可能です。――



 頭の中でワンの声がひらめく。ナックル・ガントレットの下――右手の甲辺りに熱を感じ、食いしばるように閉じていたまぶたを微かに上げると、また声の波紋が響く。

 

 ――繰り返します。あなたの右手でデモン・カーズが発動したことにより、スペシャル・スキル デモニック・バーストが使用可能になりました。――

(――デモニック・バースト……何だよ、それ……?)

 ――このままでは全滅必至です。どうなさいますか、斯波ユキト?――

(お前ッ……!)

 

 まぶたを押し開いて左右に顔を動かしたユキトは、同じように締め付けられて苦悶している紗季を、ひづめで蹴られて転がり、かぎ爪でセーラーブレザーごと切り裂かれそうになっている潤を見た。

 

「――使ってやるよッ、そのスペシャル・スキルッッ!」

 

 叫んだ瞬間、鋼の下で熱くなった右手から力の奔流が全身を席巻し、次元を超越したようなパワーがせきを吹き飛ばしてあふれ出す。両目を燃え輝かせたユキトはほとばしる力のままに怪物の指に抗い、拘束から外れた両手で外骨格を万力さながらにつかんでバギャッとねじり、締め付けが弱まった隙に抜け出して――

 

「――ゥオォオオオオオオオオオッッッッッ!――」

 

 指を折られてグゥォオォッと鳴くグリゴ・デオの下腹部にこぶしの砲弾が炸裂し、いっそう前屈にさせてぐらつかせる。しかし、後ずさった怪物は流動する地面にひづめをめり込ませ、巨体を立て直すと爬虫類然とした顔を凶悪にひび割れさせて、グワァッと牙をむいた。

 

「……これが、デモニック・バースト……」

『戦闘スキルを爆発的に上昇させるスペシャル・スキルです。これにより、生き延びられる可能性が若干上がりました』

「すごい……これなら……!」

 

 空中できらめくワンの下、光を帯びたナックルダスターを、ガントレットを見つめたユキトは足を開いてぎこちないファイティングポーズを取り、うなりを高める正面の相手と、紗季を投げ出し、潤から標的を変えた残りの2体をにらみつけた。

 

「……やってやる! お前らなんかに殺されてたまるかッ!――」

 

 吠えたユキトは地を蹴り、紗季たちに括目されながら光る鋼のこぶしを繰り出した――