REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©NaG∀T∴

Mov.2 ニホンザル(3)

「――そこで止まりなさいっ!」

「ちょっ、ちょっ、ちょっ――!」

 

 マジックダガーの切っ先を向けて警告する潤に、南アジア系少年は慌てて両手を大きく上げた。

 

「――助けたのにそれはないだろ。ボクは無害だよ、harmlessっ!――おい、ワン、helpしてくれよ!」

『信頼関係の構築は、当事者同士でお願い致します』ワンが3人の頭上できらめく。

「unfeelingだなぁ、お前……」

「こちらにも多少の心得はあります。何かたくらんでいるのなら、けがをしないうちに行ってしまいなさい」

「ハァ……ちょっとhard過ぎじゃない?……――ねぇ?」

 

 少年はため息をついて肩をすくめ、右膝を立てて腰を上げるユキトに困り顔で同意を求めると、しょうがないなという感じで自己紹介を始めた。

 

「ボクはジョアン・シャルマ。鶴城かくじょう高等学校の二年生でseventeenだよ」

「ジョアン・シャルマ……インド系……?」潤が顔立ちや肌の色を見てつぶやく。

「……ずいぶん日本語が流ちょうなんだな」

 

 ようやく立ち上がったユキトが潤の斜め後ろで言うと、ジョアンは右手人差指で小麦色の頬をこりこりかいた。

 

「そりゃあボクはJapanese――インド系日本人三世だもの。別に珍しくないだろ。今の日本にはミックスだってたくさんいるんだし」

「ああ……」

 

 少し間の抜けたことを言ったのに気付き、ユキトは苦笑いした。四半世紀前にWPA――世界経済連携協定に日本が加盟して国籍取得許可制が撤廃されて以降、外国――とくに北朝鮮との統一を果たした韓国、中国、ブラジル、フィリピンなどからの移住者が増加した。ユキトは今までインド系と関わりが無かったのでおかしな発言をしてしまったが、ジョアンのような少年は今やありふれた存在だった。

 

「……そうだよな」

「そーそー。それじゃ、キミらもself‐introductionしてくれよ――って言うか、アドレスブックに登録し合おう! ほらほら、早く開いて」

「わ、分かった。――加賀美さん、いい?」

「え、ええ……」

 

 そうして登録し合うと、ジョアンは2人のプロフィールに目を通した。

 

「ユキトにジュン――2人ともボクと同学年だね。よろしく。それにしても、いきなりトバされたからsurpriseしたよ。ワールドで歴史の授業を受けていて、アトランタのマーチン・ルーサー・キング・ジュニア国立歴史地区にトぶところだった――おっ? What?」

 

 ジョアンの――ユキトと潤それぞれの眼前に突然モニター型デザインのウインドウが開き、テクノポップなベル音が繰り返される。画面上では着信に応答するかどうか選択を求めており、ワンを見上げたユキトは、これは何だと尋ねた。

 

『それが通信アプリのコネクトです。誰かが応答を求めていらっしゃるようですね』

「つなげてみましょう、斯波君」

「う、うん」

 

 言われてユキトは回線をつなげたが、ベリノイズでずたずたの映像と不明瞭な音声が途切れ途切れに流れ、程無く切れてしまった。

 

「……どういうことなんだよ、ワン?」

『通信状態が悪いようですね。原因は――』

「空間震の影響andコネクトレベルが低いため――ってことか?」と、ジョアンが先に言う。

『おっしゃる通りです』

「誰が、何の目的で通信してきたの?」潤がワンを見上げ、ただす。「ここに転送されて来た人間が今何をしているのか、あなたは把握しているのでしょう?」

「そっか、同時に複数の場所に存在できるとか言ってたもんな。――教えろよ、相手はどこにいるんだ?」

『私が行うのは最低限のサポートのみ。お知りになりたいのでしたら、ご自分たちで動いて下さい』

「……こいつ……!」

 

 苦い顔をしたユキトは、金的をやられた恥をそそごうと2人に先んじてマップの縮尺を小さくし、自分たち以外の反応を探して、あっと声を上げた。

 

「どうした、ユキト?」

「誰かがこっちに来る!」

「本当だわ。Unknown反応よ」

 

 マップ上に表示された白い光点が、金髪少年が消えたのとは別方向から木々の間を縫って接近していた。速度からすると走っているらしいUnknownにユキトは緊張し、鋼のこぶしを構えて潤の前に出た。

 

「斯波君?」

「……今度は油断しない。加賀美さんを危ない目には遭わせないよ」

「greatだな、ユキト。よぅし、ボクも負けていられないな」

 

 ヒューと口笛を吹いたジョアンが前に出て、ユキトと並ぶ。ユキトとジョアンが前列、潤が後列というフォーメーションを取った3人は、揺らめき流れる暗緑のゆがみから迫る相手を待ち受けた。

 

(――来るっ!)

 

 樹間に揺らめく人影が浮かび上がり、低木の枝葉にぶつかりながら全速力でこちらに駆けて来る。だんだん明瞭になる像を凝視していたユキトは、広がった金色の翼を認めて目を疑った――