REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©NaG∀T∴

Mov.50 赤い死の仮面(2)

いくつもの林に囲まれてそそり立ち、ライトアップされて白く輝く大理石の巨大ピラミッド……星の欠片すら見えない夜空に映えるルルフキャッスルへ、てんでんばらばらに枝を伸ばす木々の間を風のように駆け抜けて接近する影―― 黒装束のクォン・ギュンジ―― ヘッ…

Mov.50 赤い死の仮面(1)

きらびやかな円柱型の密室がスウッと上昇――沈み込む感覚に襲われ、ユキトは重い頭をいっそう垂れた。 (……これさえなければ……) 両手首にはまる封印の手錠から陰鬱な目をのろのろ動かし、自分の左前――コントロールパネル前に立つ北倉のがっちりしたレザーの…

Mov.49 笑う悪魔(3)

「――おらおらァ! こんなもんかよ、軍将様ァッ!」 「――はあッッ!」 鋭い突きをかわして斬り結んだ佐伯は、押しやろうとする矢萩の力を利用して後方に跳び――下腹部から燃え上がる気合で刃を輝かせ、生み出した9頭の猛虎を斬撃とともにグワッッと解き放った…

自ritsu

これは俺の骨 これは俺の血 これは俺の肉 これは俺の鼓動 これは俺の呼吸 これは俺のまなざし これは俺の叫び これは俺の魂 何一つ無い 売り渡すものなど

俳句 2017年4月2日

俳句 2017年4月2日

(8)

雪に点々と印される血の跡が、瞬く間に白く消されていく。いくらか弱まったとはいえ、まだ強く吹き荒ぶ雪の中をシグルは血まみれの肉体を引きずり、額の傷から流れる血で視界を赤く染められながら、這うように一歩一歩山をのぼっていた。 その頭には、もはや…

(7)

(――!) シグルは足を止めた。視線の先に影があった。口から蒸気を噴き出して急斜面に立つ、頭から角を生やした黒い獣―― 「シグル、か……!」 殺気みなぎる声が飛び、猛吹雪からオージュが現れる。それに続いてフルーたちも姿を現し、シグルは左右に広がった…

(6)

闇に埋もれた針葉樹林を揺さぶって、夜が雪とともに飛んでいく。巨躯が冷え切って重くなったシグルの頭上で雪雲の層が黒から蒼に変わり始め、寝ずの番をする見張り役たちのあくびが風のうなりに混じって聞こえた。 やがて未明を迎えた林の中央で、シカたちが…

(5)

吹雪で濁った麓――分厚いねずみ色の雲のはるか下、林が少し開けた場所で開かれた集会では、長老、その右隣に鼻高々と立つオージュ、卑しげな笑みをたたえたフルーを始めとする雄たちに囲まれたシグルが、ぶつかるとげとげしい雪から目を伏せ、口からかすれた…

(4)

未明、シグルは硬い雪を掘り、秋のうちに土の下に蓄えておいた木の実で軽く腹ごしらえを済ませると、仲間に気付かれないように林を抜け出して吹雪の山をのぼった。 ――あの子オオカミを、殺す―― 痛みが残る右後ろ足を心持ち引きずり、拒むように枝を伸ばす低…

(3)

――あのとき、巣穴からふらふら出てきたのは、見るからに弱って足取りもおぼつかない子オオカミだった。まだ生後数十日くらい――野ウサギより一回り大きく、薄灰色の柔らかな毛並みをした幼子は、どうやら病んだ熱に浮かされているらしくぼうっとしていたが、…

(2)

「そうか……よくやったな」 老シカは少し離れて前に立つシグルをしわがれ声でねぎらい、吹き付ける雪に顔のしわを深めた。風雪になぶられる針葉樹林の少し開けた場所で、くすんだ毛並みの老シカを要かなめに十数頭の雄シカがシグルを囲み、オオカミ殺しを始め…

(1)

逆稲妻形の角を伝った血が風に飛び、かき乱された雪の上に落ちる。引き裂くような吹雪がすべてを灰色に煙らせ、そそり立つ針葉樹と落葉した低木の群れを侵した森で焼き切れそうな息を吐く雌オオカミは、角の先を赤く汚して自分と対峙する雄シカをかすんだ双…

話はそこで終っていた。 わたしは本を閉じて妻を見た。彼女はただ、じっとわたしを見つめていた。闇が忍び込み始めた部屋はどこか異様さを増しており、熱のせいか寒気がして頭が少し朦朧もうろうとしてきた。わたしは一言、怖い話だねと言って本を返すと、妻…

―――――――――――――――――――――――――――――――― 肉が切り裂かれ、血が噴き出す音が聞こえました。サイキが私をかばって剣を受け、崩れていくのが見えました。仰向けに倒れた体に飛び付き、ごぼごぼ血があふれる傷口を両手で押さえて繰り返し名を呼ぶ私を見つめ、サイキは…

地上を忘れようと努めてしばらく経ったある日、いつものように鬼たちと働いていた私のところにメミという名の鬼女が転がり込んで来ました。ぜぇぜぇ息を切らしながら何事か伝えようとする彼女――まだ鬼の言葉を大まかにしか理解できなかった私はサイキを呼ん…

私はその穀物らしきものに手をつけませんでした。得体が知れないうえ、鬼女が触れたものなど汚けがらわしいと思っていましたし、何よりも地上を、あの光に満ちていた世界を僅かでも思い出させるにおいなど嗅ぎたくありませんでした…… しかし、鬼女たちは私の…

残暑の濁った夕暮れ…… 遠く……か細い蝉の鳴き声が聞こえる…… ふと……夢うつつに目を覚ますと、友人の見舞いに出かけていた妻が頭のそばで正座をしていた。白い肌とワンピースが、窓から差し込む黄昏の陽で薄暗い赤に染まっている。マンションの西向き六畳和室…

Mov.49 笑う悪魔(2)

くすんだ目元をゆがめ、佐伯は肘を突いて組み合わせた手がテーブルに落とす影をにらんだ。背中を曲げて座る姿を天井の蛍光灯が照らして浮かび上がらせるそれは、薄ぼんやりとしていながら底なしに深くも感じられる。峡谷から後退し、森を抜けて再び平原にキ…

Mov.49 笑う悪魔(1)

「……う……」 意識が打ち上げられ……波に洗われる感覚にうめき、ユキトは重いまぶたをギチギチと上げた。ぼやけた狭間に映る、のろのろ流れる赤茶けた地面……確か突然世界が激震し、熱狂的な流れに飲まれて……と記憶の糸を手繰り、へろへろの体をどうにかこうにか…

Mov.48 世界フィーバー(3)

『何をぼんやりしている! 早く手を貸すんだッ!』 「だ、だけど、これって仲間割れじゃないですか?」 「そうですよ」と、同じくコネクトされた紗季。「助けてもらった借りは、さっきの戦いでチャラなはずです。これ以上利用されたくありませんよ」 『分か…

『あれ』

……始まりは昨年11月半ば、風が低くうなる週末の夜更け……―― PCとつながったヘッドフォンを外してキーボードの脇にコトッと置き、わたしは薄闇で発光するディスプレイの前で感涙を指で拭い、鼻水をすすっていました。人と異種との出会いと共生の物語――わた…

マホウのころも

マホウのころも――これこそマホウの最高傑作であり、楽園への切符だった。

テンゴクジゴク

……ハジメまして。スマホから送る、この動画メッセージをあなたが見てるとき、あたしはもう警察に捕まってるかもしれない。けど、後悔なんてしてないよ。あたしは決めたんだ。この世界に反逆の種をまいてやるってね。 ちょっと順序が逆になっちゃったけど、自…

さよなら、クロ

野良のクロネコは、独りぼっちだった。 だが、クロネコにとっては、それが当たり前だった。暗く寒い夜、砂利の駐車場で車の下に産み落とされ、いつのまにか母や兄弟姉妹がちりぢりばらばらになってから、ずっとそうだったのだから。 縄張りを持たず、自分の…

Mov.48 世界フィーバー(2)

――ユン、そしてイ・ジソンのATVが薄れゆく霧から現れ、合流してアイドリング状態になると、疲れ顔のクォンはATV上から自軍メンバーがそろったことを確かめて重たげな息を漏らした。消耗に比例して霧は力を失い、もはやちょっとした煙幕でしかない。ク…

Mov.48 世界フィーバー(1)

赤い刃は、ピンクの髪に触れる寸前で止まっていた。 羅神の柄をぎりぎり握り、息を震わせてにらみつける佐伯…… それを、静かに見つめ返すジュリア…… 揺らめく霧の世界で相対する意思は、肌寒い空気をいっそう張り詰めさせた。 「……できへんよ、シューくんに…

俳句 2017年3月22日

春うらら 紅あかに白にと 咲き誇り

俳句 2017年3月21日

俳句 2017年3月21日

Mov.47 よみがえる悪夢(5)

「……学校よね、ここ?」 「うん……また誰かとシンクロしているんだ……」 同年代の制服姿とすれ違い、連なる無個性なドアと窓に目をやって……ユキトは、まるで幽界といった感の薄暗い廊下を紗季と慎重に歩いた。入谷たちと戦ううちにユンたちとはぐれ、濃霧と幻…

Mov.47 よみがえる悪夢(4)

「……お前は、あのとき……」 抜き身の羅神片手にATVから降り、佐伯は流動に袖や裾を揺らされながら間合いぎりぎりに立つ少女を凝視した。くしゃくしゃのピンク髪、まだ未成熟であどけない体を飾る花柄の半袖チュニックTシャツ、ハーフパンツから出てエジプ…

Mov.47 よみがえる悪夢(3)

竜の道さながらに荒々しくくねり、うねる谷間……揺らめき、のろのろ流れる濃霧の河……視程数十メートルほどのその底――鼻口を覆うガスマスクをつけた一団が、転がる小石を時折蹴りつつ息をはずませる。スウェットパーカー&パンツのユキト、オレンジジャージの…

Mov.47 よみがえる悪夢(2)

縊死いしした父親を発見したとき、矢萩は凍り付いた。 競売にかけられた、かつて自分が所有していた工場の事務所でノブにベルトをかけ、ドアに寄りかかって土下座するように首をつっていた父……ジャージパンツを濡らし、床を汚したアルコール臭い父親の尿臭に…

Mov.47 よみがえる悪夢(1)

蒼く、薄ら寒い夜明け――全員ステルス・モードにしたハーモニー軍はキャンプを引き払って進軍を開始、冷え冷えとした木々の影がたゆたう森を抜けて峡谷に踏み入った。 指揮官の佐伯と矢萩たち将校4名がそれぞれ部下10名、オートマトン50体を率いる、数の…

Mov.46 駆り立てる思い(5)

「……どう、なるんだ……」 しわが寄った額に左手を乗せ、ひとりごちる……箸が進まぬ夕食を終え、タオルケットに包まってパイプベッドに横たわるユキトの不安を、ドア前に浮かぶカンシくんが機械的に撮影し続ける。クォンに宛がわれたドーム屋根住居の寝室……四分…

Mov.46 駆り立てる思い(4)

閉め切られ、きりきりした緊張感がよどむ集会所……議長席――黒革の椅子にどっかと座したクォンは、本黒檀のテーブルの左右に仮面じみた顔を並べる韓服姿のファン・ヨンミ、ホン・シギ、イ・ジソンたち、そして末席で断崖をのぞくように卓上を見つめるユン・ハ…

Mov.46 駆り立てる思い(3)

「あれぇ、もうビールが無いなあ~――ほら、ミセっち! 追加だよー!」 座布団を尻に敷き、あぐらをかいた入谷が空き缶を振って騒ぐと、店舗デザインのウインドウ前で腕組みした手の平大の二つ編みアレンジ少女がため息をつく。 『はぁ……あんたら、未青年だよ…

Mov.46 駆り立てる思い(2)

血がにじんだような夕焼け……荒野に伸びる長い影――揺らめく石柱群の間を赤黒く染まった小柄な姿が転がるように駆け、己をすっぽり隠せる陰へつんのめって突っ込む。葉エリー――褐色の肌から噴き出た汗でTシャツを濡らし、その上のカーディガンやガウチョパン…

Mov.46 駆り立てる思い(1)

「これは、ドローン〈レイヴン〉が撮影した映像――このキャンプから直線距離で約10キロほど南西のものだ」 議長席に座る佐伯は自分の前に表示される俯瞰映像――ドーム屋根住居の集まりと空を見上げる韓服姿を目で射、居並んでウインドウを見る部下たちに滑ら…

Mov.45 逃避行(3)

陰りを帯び、妖星がぎらつく西の空……暗さを増す峡谷をATVが徐行し、その後ろを歩くオートマトンが封印の手錠をはめられたユキトと紗季を鎖で引く。のたくり、波打つ小石だらけの道を進んだ一行はやがて開けた盆地に出、地面に影を伸ばすドーム屋根住居の…

Mov.45 逃避行(2)

「斯波ユキト、篠沢・エリサ・紗季っ!」アイドリング音に混じって峡谷に反響する、梶浦の生真面目な声。「抵抗はやめなさい! 投降すれば、悪いようにはしませんっ!」 「いきなりグレネードをぶっ放しておいて、よくもそんなことが言えるなッ!」 「お前た…

Mov.45 逃避行(1)

かすみ、たゆたう陽が西へよろめくはるか下……高さ百数十メートルに及ぶ切り立った崖の狭間に薄ら寒い影が満ち、入り組んだ川さながらに一帯を統べる。その薄暗いラビリンスの底……重い足取りで歩む紗季……斜め後ろのユキト……謎の黒い嵐に助けられ、早1カ月――…

Mov.44 不遜な進化(2)

挨拶したクォンの映像が消えてウインドウが閉じると、青筋立てた北倉がテーブルを両手でバンッと叩く。 「まったく頭に来るヤツだッッ! あの韓国系めッッッ!」 「ロベー、そのテーブルは、マホガニー製でハイパーに高いのよ。バンバン叩かないで」 「あッ…

Mov.44 不遜な進化(1)

――僕たちがルルりんと遺跡を脱出し、ヘブンズ・アイズで事前に見つけていた北西30キロ地点のフェイス・スポットに腰を落ち着けて3週間……佐伯修爾率いるハーモニーに対抗するため、ルルりんキングダムは遺跡南西に新たな拠点を構えたコリア・トンジョクと…

Mov.43 黒い力(4)

夜気を震わす、鳥獣の奇怪な鳴き声――耳を打たれ、まぶたをぴくつかせたシン・リュソンは薄く開いてのしかかる闇をぼんやり見た。どす黒い黒雲の層……悶え、ねじれて引きつったように枝葉を伸ばし、茂らせる木々を飲み込んで流れる泥状の闇……下生えの上で仰向…

Mov.43 黒い力(3)

「何だ、シャルマ少尉」 「そんなヤツ、リーダー自ら手を下す必要はありません。ボクにやらせて下さい。お願いします!」 「ちょっ、ジョアン、あんた、何言ってるの?」 「ボクは、そいつに恥をかかされた。その雪辱を果たしたいんだ」 ジョアンは拘束され…

Mov.43 黒い力(2)

軍事務所に飛び込むやカウンターを乗り越えて夜勤の兵士に殴りかかり――ユキトはコネクトする間を与えずにのして気絶させ、ライトンをつけて奥の階段をダダッと駆け下りた。 「――篠沢っ!」 ブタ鼻からの光が鉄格子越しに留置室の中を照らし、奥に洋式便器が…

Mov.43 黒い力(1)

もだえて壁側に寝返り、ユキトは暗闇で低くあえいだ。カンシくんのカメラを避けてベッドに潜った全身が病巣びょうそうになったように苦しく、脈動するたび鈍く痛む。1カ月を超える探索の疲労に加え、昼間矢萩から受けた拷問のダメージが呪いに加勢してさい…

Mov.42 青い鳥(4)

「――聞かれたことにちゃんと答えなさい!」 いら立つ潤の声が4畳半ほどの取調室に響き、向かい側にうつむいて座るエリーがいっそう体を縮める。向かい合わせた机越しに取り調べる潤――その斜め後ろには佐伯が腕組みをして立ち、峻嶮しゅんけんな顔付きでやり…

Mov.42 青い鳥(3)

まるで、冷たい沼に沈んでいるかのようだった。 掃き出し窓に引かれて乏しい陽を遮るカーテン、呼吸をするほど胸に影が蓄積していくような部屋、ローテーブル越しに鋭く見据える軍服姿の矢萩あすろともう1人の将校――梶浦翔一。自宅の薄暗いリビング――ソファ…