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REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

Mov.38 約束(3)

紗季がユキトを家に連れ込むのを見届けると、新田はイジゲンポケットからアウトドア用ラウンジチェアを出して腰かけ、揺らめく雲間に見える赤い輝きを見つめながら眉根にひびを入れ、右手の平でそれを押さえた。その少し離れた横にエリーが突っ立ち、低スペ…

Mov.38 約束(2)

「新田さん、斯波に頼り過ぎてるよね……デモン・カーズのこと、知っているのに……」 「……」 壁をにらみ、ユキトは苦虫を奥歯ですり潰した。新田はスペシャル・スキル――オーバーロードを使い渋り、その分周りに負担をかけていた。 「……あの人、スペシャル・スキ…

Mov.38 約束(1)

激突――激震――赤茶けた大地、乾いた流動の震動が左右に跳ぶユキトたちをぐらつかせ、立ちすくんでいたエリーにドタッッと尻もちをつかせる。 「――エリーちゃんッ!」 炎模様鮮やかな洋弓ブレイズウインドを手に駆け寄る頭上――ゴオオ……と巨岩が重々しく上昇し…

Mov.37 未明の離脱(6)

未明の薄闇に紛れ、ユキトはひやりとする空気を乱して荒れた地面を蹴った。アラート発報する間を与えずにカンシくんを破壊し、詰所の夜勤者が居眠りしているのを確かめて走り出した彼の心臓は、濃紺の空の下で激しく高鳴った。 (……しばらく眠っていてくれよ…

Mov.37 未明の離脱(5)

エレくしょん・エレンによる電子投票を経て佐伯がリーダーに正式就任した日の夜、ユキトはトイレに入ってカンシくんのカメラから逃れ、便座に腰かけ、コネクトの音量を絞ってから新田にコールした。ほどなく回線がつながり、3分割画面中央に新田、そして彼…

Mov.37 未明の離脱(4)

会議散会後、運営委員会事務所を出た佐伯は、事務所前で照明灯に照らされながら待機していた潤と松川の高揚に迎えられた。 「おめでとうございます」潤が祝う。「佐伯隊長――いえ、リーダー」 「みんな喜んでますよ! コネクトをチェックして下さい!」 顔を…

Mov.37 未明の離脱(3)

「ふん、佐伯が暫定リーダーか……」 高級ぶった黒革ソファにもたれてグラスを傾け、キム・ジュクはストレート・ウイスキーの焼けるような濃厚さを味わいながら鼻で笑った。赤瓦台のリビングダイニング――コの字型に置かれたソファには、キムの他にチュ・スオと…

Mov.37 未明の離脱(2)

「……これって……」 ガバッと掛け布団をはねのけて起き、ユキトは暗闇に浮かぶコネクトのウインドウ――表示されたメッセージを食い入るように見つめた。 「――『ディテオ討伐隊参加者募集』……『希望者は、明日19時までに新田へコネクト――』……独自にやるつもり…

Mov.37 未明の離脱(1)

時刻は21:06―― マスコットキャラのエレンが乗り乗りに腕を振ってモンキーダンスを踊る後ろ――『集計中』と大きく表示されるウインドウが、ちょうど議長席でこぶしを固めて固唾を呑む新田の正面――運営委員会事務所3階会議室後方にスクリーンサイズで開き…

Mov.36 きしむ会議(2)

――新田リーダーは、自分の都合で討伐隊派遣を急いでいるだけ! コミュニティのことなんか、これっぽっちも考えていないっ!―― ――調査隊を強引に派遣して犠牲者を出し、自らのコミュニティ運営の甘さによってラー・ハブ襲撃による被害を甚大にしていながら、…

Mov.36 きしむ会議(1)

「俺は、討伐隊を派遣するべきだと思う」 開口一番押し付けるように言い、テーブルに両こぶしを置いて身を乗り出した新田が一同を見回す。アップデートのアナウンス後、新田がすぐさま強引に翌朝開催を決めた会議に出席する委員たちは、書記のエリーが小さな…

Mov.35 アップデート(5)

「……アップデート?」 手錠の鎖をカチャカチャ鳴らして寝ぼけまなこをこすり、ユキトはベッド上から暗闇に浮かぶ光球を見上げた。 『そうです、斯波ユキト』 いきなり部屋に現れて叩き起したことを悪びれる様子も無く、ワンは淡々ときらめいた。 『――封印の…

Mov.35 アップデート(3)

「――何なんだ、貴様らァッ!」 カンシくんのアラートを受けて仲間と赤瓦台せきがだいを飛び出したキムは、ライトンをカッと光らせてずかずか近付いて来る警備隊を阻み、青筋立てて怒鳴りつけた。キムの左右にはチュ・スオとオ・ムミョンが立ち、コネクトで呼…

Mov.35 アップデート(2)

「――こ、こいつらが、コンサートを中止しろと言うんですッッ!」 「貴様らは、公序良俗こうじょりょうぞくに反しているッ!」 三人衆と警備隊員の前で矢萩は居丈高に怒鳴り、口の前に持って来た拡声器でルルフめがけて響かせた。 『――ショップでの購入額でラ…

Mov.35 アップデート(1)

「……素晴らしい……素晴らし過ぎですよ、ルルりん。あなたを称えるルルラーと予備軍が、こんなにもたくさん……ふふふ……」 熱気を放ってごった返すステージ前を舞台袖からのぞき、鎌田は背でルルフの金シルエットが踊るTシャツ姿を震わせた。夜の帳とばりの下、…

Mov.34 私刑(2)

「ステルス状態で、西の砂漠地帯をふらついていました」 松川が手柄顔で報告し、うなだれ、背中を曲げた姿を見下ろして興奮気味に続ける。 「――口臭からすると、こいつ、SOMAを吸っていたみたいですよ」 周囲につられ、警備隊事務所前に紗季たちと流れた…

Mov.34 私刑(1)

揺らめく地平が恐る恐るまぶたを上げると、まるで空爆を受けたか、破壊を喜びとする蛮族になだれ込まれたかのような無残な光景が、うっすら浮かび上がる。焼け焦げ、押し潰されて大半が瓦礫がれきに変わり果てたプレハブハウス群……その中で、傾いた外壁にぼ…

Mov.33 獣、現る(10)

「……貴ッ様ッッ……!」 ぎらつく日本刀――影清をグワッと振りかぶり、佐伯が双眸をすさまじくつり上げると、その頭上にワンが出現してきらめく。 『〈ラー・ハブヘッド〉、ラー・ハブのボスです。強敵ですのでご注意下さい。なお、見事倒した方には、インセン…

Mov.33 獣、現る(9)

「……ジュ、ジュ……リっ……――ッ!」 酩酊めいてい者のそれのような足を取られ、シンはドザアッッと転がって砂にまみれた。瓦屋根を、となが食堂の木製看板をむさぼる炎が、無様な姿を上から赤く焼く。暴行と銃撃のダメージにポーションを使って燃え盛る住宅地域…

Mov.33 獣、現る(8)

「――やあッッ!」 砲声のごとき気合――白刃から複数の氷柱がババァッッと飛び、ラー・ハブの巨体に突き刺さって鳥肌立つ鳴き声をほとばしらせる。その隙を逃さず突っ込んだ潤の斬撃が黒うろこと肉をザクッと裂き、傷口から赤黒い血をブフッと噴き出させた。 …

Mov.33 獣、現る(7)

『――繰り返します。コミュニティメンバーは速やかに近くの警備隊員と合流し、防戦と消火活動に当たって下さい。繰り返――』 リピートされる後藤のボイスメッセージを切り、ユキトは合流を急ぐ若者たちとすれ違いながら延焼する住宅地域を駆けた。そばに開いて…

Mov.33 獣、現る(6)

「――……ん……んん……」 もぞもぞ寝返り、新田はベッドの中で顔をしかめた。ドクター・メディカから処方された睡眠薬を内服し、どうにか入眠しかけたところに響く、ドンドンという打撃音……掛け布団をかぶって寝入ろうとするも、音は執拗に続き、さらにそこへ切迫…

Mov.33 獣、現る(5)

「……コミュニティが……!」 玄関ドア開けっ放しの自宅前に立ち、ユキトはところどころから炎と煙を上げて夜空を赤く染める住宅地域にぼう然とした。異様な気配に目を覚まし、寝床から出て掃き出し窓のカーテンの間から火の手を認めてスウェット姿のまま飛び出…

Mov.33 獣、現る(4)

「――どうだ、楽しめたか? こいつも貴様なんかと関わらなければ、こんな目には遭わなかっただろうにな」 「………………………………………………――ぅうわあああああぁアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァ…

Mov.33 獣、現る(3)

背もたれに力無く寄りかかり、シンは岩石砂漠を塗り潰した闇をうつろな瞳に映していた。 外敵警戒――8時間交代で遺跡の四方をそれぞれ2人1組で警戒する任務―― 日付が間も無く変わる時刻、担当する遺跡西側の巡回を終えたシンと相方の由多ゆたミハイルは、…

Mov.33 獣、現る(2)

住宅地域外周を逆時計回りに歩いたジュリアが遺跡南側――となが食堂脇に出ると、消灯されて真っ暗になった食堂正面で、瓦が敷かれた丸屋根に自然石調の白い壁面の施設――入浴施設テルマエランドが、併設のランドリーともどもライトアップされていた。営業終了…

Mov.33 獣、現る(1)

息苦しい暗がりで、ジュリアはタオルケットに包まった体をもだえるように寝返らせた。皆夕食を終え、それぞれの住まいで寝支度を始める時刻……遺跡の端にぽつんと張られたドームテント内では、闇が重く固まって独り横たわる少女を冷たく圧していた。 「……シン…

Mov.32 荒廃(7)

崩れた石垣を這いずるように上がり、薄暗い住宅地域外周部を歩き続けたシンは並んだドームテント二張りの前にぽつんと立つ小柄な人影を見て目を伏せ、左手と出血で汚れた右手をカーゴパンツのポケットに深く突っ込んで歩を進めた。そして、ジュリアの姿が識…

Mov.32 荒廃(6)

「――はあぁ……とろっとろにとろけるわぁ……」 恍惚としてアヒル口からふわあっと煙を吐き、入谷玲莉はチャコールグレーのパーカーを着た体をソファの背にだらしなくもたれかからせた。その右手指の間には、電子たばこが挟まれている。だが、隣でワインレッドの…

Mov.32 荒廃(5)

揺らめく闇をふらつき、くねる木の幹にぶつかり、張り出した根につまずいて転ぶたび、生傷や打撲が増えていく……石垣の崩れた部分から下り、遺跡のすぐ外で外敵警戒任務に当たる夜勤者の目をくぐってふらふら森に足を踏み入れたシンは、己の四肢も満足に見え…

Mov.32 荒廃(4)

引き戸をずるずる開けて外に出ると、空は恐ろしいほど真っ暗になっていた。 動かすたび響く、ひび割れるような痛みに歯がみし、シンは前のめりの体を引きずって警備隊事務所から離れた。急きょ改定されたコミュニティ・ルールに基づき、警備隊事務所裏手のグ…

Mov.32 荒廃(3)

第16回 運営委員会会議 議事録 日時:テンペスト・ライフ 206日目 14:00~16:00 場所:運営委員会事務所 3階会議室 [出席者] 新田公仁(コミュニティ・リーダー) 後藤アンジェラ(サブ・リーダー兼情報マネージャー) 佐伯修爾(軍務マネー…

Mov.32 荒廃(2)

「――ほら、起きなさいよ! 斯波っ!」 半ば強引に掛け布団がはがされ、ユキトは壁側を向いて横たわるグレーのスウェット姿をさらした。渋い顔でまぶたを上げ、仰向けになると、カーテンもろとも全開にされた掃き出し窓からぼんやり差す、病み上がりのような…

Mov.32 荒廃(1)

「――くッ、おらあッ!」 枯れ葉と下生えの流れを転がり、シンは鋼はがねの孤狼ころうを思わせるリボルバー――バイオレントⅣからドォン、ドォン、ドォンッと炎を噴かせた。猛る弾丸が爆発さながらに幹をぶち抜き、体長およそ3メートルの巨体に炸裂して赤褐色…

Mov.31 手の平(6)

ファスナーが開き、薄暗いテントに入って来る気配でジュリアは目覚め、丸まっていた体を起こして寝ぼけまなこをこすった。 「なんだオメー、ふるえてるうちにねむっちまったのか?」 「……シンちゃー! どこまでいってたん? うちのこと、ほっぽっといてッ!…

Mov.31 手の平(4)

――ゼェ、ハァ――ゼェ、ハァ、ハァ―― 飛び散る、雨混じりの汗―― ――ゼェェ、ハァ――ハァ、ゼェェ、ハァ―― スウェットの上下がぐしょぐしょ、靴下が泥まみれの姿が、妖魔のごとく踊り狂う木々の間を一目散、転がり、突き飛ばされながら逃げる――その背後から焼けた…

Mov.31 手の平(3)

「……分かった。あたしもそろそろ引き返すから……うん、ありがと。それじゃね」 すさぶ風と耳障りな葉ずれ、枝葉打つ雨音にかき消されぬように声を張り、コネクトを閉じたオレンジジャージ姿の紗季は、躍る栗色の髪を右手で押さえ、号泣する天候がうねり、木々…

Mov.31 手の平(5)

うねりが峠を越し、濁りが薄れた黄昏――ぽつぽつと雨粒に打たれながらユキトは紗季の肩を借りてひずんだ石段を一段一段、膝が崩れないように奥歯をかんで気を張り、疲労困憊で鈍った足を持ち上げてのぼった。やがて上がり切ると、正面――となが食堂前にバリケ…

Mov.31 手の平(2)

「……あれてきやがったな……」 無数の蛇が這うような黒雲のうねりを見上げ、ぼさぼさ金髪を吹き乱されるシンは横殴りの雨をバリアではじきながらつぶやいた。黒スポーツサンダルが泥を踏むその後ろには、ダークブルーとピンクのドームテントが並び、大きな雨粒…

Mov.31 手の平(1)

濡れて黒ずんだ木々が湿った暗緑を揺らしてざわめき、張り出した数多の根が大蛇のようにのたくる……流動の乱れに引きずられて天候は崩れ、太さを増した針状の雨がグレーのスウェット上下に突き刺さってべしょべしょにし、髪やまつ毛から滴しずくをぽたぽた落…

Mov.30 夜陰に消える絆(3)

第15回 運営委員会会議 議事録 日時:テンペスト・ライフ 180日目 10:00~11:00 場所:運営委員会事務所 3階会議室 [出席者] 新田公仁(コミュニティ・リーダー) 後藤アンジェラ(サブ・リーダー兼情報マネージャー) 佐伯修爾(軍務マネー…

Mov.30 夜陰に消える絆(2)

ふっ、と目を覚まし、紗季は闇に溶けた天井を寝ぼけまなこでぼんやり見た。ショートヘアと枕とに半ば埋もれた耳が、遠くでざわめく風の音を微かにとらえる。ベッドの中で腕をもぞもぞさせ、掛け布団の上にボフッと右手を出し、まだはっきりしない頭で時計ア…

Mov.30 夜陰に消える絆(1)

――……どうして、こんな……!―― ――……なぜ僕が……! 何でだよ……何で……!―― ――……薄情だよ、潤は……僕がこれだけ苦しんでいるのに……―― ――……みんなは、僕があいつと同じになるって……同じになって危害を加えるって……!―― ――……いいさ……その通りにしてやる……何もかもぶっ…

Mov.29 魔人(4)

『――……斯波ユキトに対する反応は、おおむね今申し上げたようなところです。ルルりん……』 むんむんとした湯気とウインドウ越しに報告し、鎌田は大理石の浴室でバラ風呂にゆったりつかるルルフにぼうっと見とれた。黄金の清流のようなブロンドをタオルで頭にま…

Mov.29 魔人(3)

「――入るわよ、斯波」 玄関ドアを開けた紗季は、充満する陰鬱な空気に思わず顔を引いた。夕暮れが近いこともあるが、掃き出し窓のカーテンがぴっちり閉められた1LDKは、別世界のように薄暗い。紗季と沢城がスリッパを履いて上がると、奥に浮かんでいたカ…

Mov.29 魔人(2)

ユキト宅を出ると、潤は詰所の監視当番に面会終了を告げて住宅地域に足を向けた。地面から不ぞろいに出た石の土台をショートブーツで踏み越え、黒髪を揺らしながら不整地地帯を足早に歩くうつむき加減の顔には、身を切る寒風かんぷうにさらされているような…

Mov.29 魔人(1)

第14回 運営委員会会議 議事録 日時:テンペスト・ライフ 178日目 18:30~20:00 場所:運営委員会事務所 3階会議室 ・ ・ ・ [議題] 1.精神に異常をきたした者たちについて 霧状物質を吸入した者たちは、魔人消滅後正気を取り戻しており、…

Mov.28 悪霧(7)

(――な、何とかしないとッ!) 気付かれた――魔人同士の反応で――暴露を恐れてひた走る視界で、出くわした狂人たちが鼻と口から霧を噴いてばたばた倒れる。噴き出たそれらは四方から集まったものとともに合流――膨れ上がった霧の塊は住宅地域を抜け、大流動の影…

Mov.28 悪霧(6)

――各自仲間と合流し、火災場所に急行して消火作業を行うとともに暴徒の鎮圧に当たれ。全員にコネクトで消火装置と催涙弾を送るので、イジゲンポケットにダウンロードして適宜使用せよ。なお、この混乱には霧状の物質が関係しているという未確認情報がある。…

Mov.28 悪霧(5)

「……ナンだ、こりゃ……」 騒ぎを耳にしてテントから飛び出したシンは、眼前に広がる住宅地域の方々から暗雲よどむ夜空にもうもうと煙が立ちのぼり、火勢が強まりつつあるのを見てうなった。シンがいるのは、運営委員会事務所の北西――広場を取り囲むプレハブ住…