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REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

Mov.34 私刑(1)

揺らめく地平が恐る恐るまぶたを上げると、まるで空爆を受けたか、破壊を喜びとする蛮族になだれ込まれたかのような無残な光景が、うっすら浮かび上がる。焼け焦げ、押し潰されて大半が瓦礫がれきに変わり果てたプレハブハウス群……その中で、傾いた外壁にぼ…

Mov.33 獣、現る(10)

「……貴ッ様ッッ……!」 ぎらつく日本刀――影清をグワッと振りかぶり、佐伯が双眸をすさまじくつり上げると、その頭上にワンが出現してきらめく。 『〈ラー・ハブヘッド〉、ラー・ハブのボスです。強敵ですのでご注意下さい。なお、見事倒した方には、インセン…

Mov.33 獣、現る(9)

「……ジュ、ジュ……リっ……――ッ!」 酩酊めいてい者のそれのような足を取られ、シンはドザアッッと転がって砂にまみれた。瓦屋根を、となが食堂の木製看板をむさぼる炎が、無様な姿を上から赤く焼く。暴行と銃撃のダメージにポーションを使って燃え盛る住宅地域…

Mov.33 獣、現る(8)

「――やあッッ!」 砲声のごとき気合――白刃から複数の氷柱がババァッッと飛び、ラー・ハブの巨体に突き刺さって鳥肌立つ鳴き声をほとばしらせる。その隙を逃さず突っ込んだ潤の斬撃が黒うろこと肉をザクッと裂き、傷口から赤黒い血をブフッと噴き出させた。 …

Mov.33 獣、現る(7)

『――繰り返します。コミュニティメンバーは速やかに近くの警備隊員と合流し、防戦と消火活動に当たって下さい。繰り返――』 リピートされる後藤のボイスメッセージを切り、ユキトは合流を急ぐ若者たちとすれ違いながら延焼する住宅地域を駆けた。そばに開いて…

Mov.33 獣、現る(6)

「――……ん……んん……」 もぞもぞ寝返り、新田はベッドの中で顔をしかめた。ドクター・メディカから処方された睡眠薬を内服し、どうにか入眠しかけたところに響く、ドンドンという打撃音……掛け布団をかぶって寝入ろうとするも、音は執拗に続き、さらにそこへ切迫…

Mov.33 獣、現る(5)

「……コミュニティが……!」 玄関ドア開けっ放しの自宅前に立ち、ユキトはところどころから炎と煙を上げて夜空を赤く染める住宅地域にぼう然とした。異様な気配に目を覚まし、寝床から出て掃き出し窓のカーテンの間から火の手を認めてスウェット姿のまま飛び出…

Mov.33 獣、現る(4)

「――どうだ、楽しめたか? こいつも貴様なんかと関わらなければ、こんな目には遭わなかっただろうにな」 「………………………………………………――ぅうわあああああぁアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァ…

Mov.33 獣、現る(3)

背もたれに力無く寄りかかり、シンは岩石砂漠を塗り潰した闇をうつろな瞳に映していた。 外敵警戒――8時間交代で遺跡の四方をそれぞれ2人1組で警戒する任務―― 日付が間も無く変わる時刻、担当する遺跡西側の巡回を終えたシンと相方の由多ゆたミハイルは、…

Mov.33 獣、現る(2)

住宅地域外周を逆時計回りに歩いたジュリアが遺跡南側――となが食堂脇に出ると、消灯されて真っ暗になった食堂正面で、瓦が敷かれた丸屋根に自然石調の白い壁面の施設――入浴施設テルマエランドが、併設のランドリーともどもライトアップされていた。営業終了…

Mov.33 獣、現る(1)

息苦しい暗がりで、ジュリアはタオルケットに包まった体をもだえるように寝返らせた。皆夕食を終え、それぞれの住まいで寝支度を始める時刻……遺跡の端にぽつんと張られたドームテント内では、闇が重く固まって独り横たわる少女を冷たく圧していた。 「……シン…

Mov.32 荒廃(7)

崩れた石垣を這いずるように上がり、薄暗い住宅地域外周部を歩き続けたシンは並んだドームテント二張りの前にぽつんと立つ小柄な人影を見て目を伏せ、左手と出血で汚れた右手をカーゴパンツのポケットに深く突っ込んで歩を進めた。そして、ジュリアの姿が識…

Mov.32 荒廃(6)

「――はあぁ……とろっとろにとろけるわぁ……」 恍惚としてアヒル口からふわあっと煙を吐き、入谷玲莉はチャコールグレーのパーカーを着た体をソファの背にだらしなくもたれかからせた。その右手指の間には、電子たばこが挟まれている。だが、隣でワインレッドの…

Mov.32 荒廃(5)

揺らめく闇をふらつき、くねる木の幹にぶつかり、張り出した根につまずいて転ぶたび、生傷や打撲が増えていく……石垣の崩れた部分から下り、遺跡のすぐ外で外敵警戒任務に当たる夜勤者の目をくぐってふらふら森に足を踏み入れたシンは、己の四肢も満足に見え…

Mov.32 荒廃(4)

引き戸をずるずる開けて外に出ると、空は恐ろしいほど真っ暗になっていた。 動かすたび響く、ひび割れるような痛みに歯がみし、シンは前のめりの体を引きずって警備隊事務所から離れた。急きょ改定されたコミュニティ・ルールに基づき、警備隊事務所裏手のグ…

Mov.32 荒廃(3)

第16回 運営委員会会議 議事録 日時:テンペスト・ライフ 206日目 14:00~16:00 場所:運営委員会事務所 3階会議室 [出席者] 新田公仁(コミュニティ・リーダー) 後藤アンジェラ(サブ・リーダー兼情報マネージャー) 佐伯修爾(軍務マネー…

Mov.32 荒廃(2)

「――ほら、起きなさいよ! 斯波っ!」 半ば強引に掛け布団がはがされ、ユキトは壁側を向いて横たわるグレーのスウェット姿をさらした。渋い顔でまぶたを上げ、仰向けになると、カーテンもろとも全開にされた掃き出し窓からぼんやり差す、病み上がりのような…

Mov.32 荒廃(1)

「――くッ、おらあッ!」 枯れ葉と下生えの流れを転がり、シンは鋼はがねの孤狼ころうを思わせるリボルバー――バイオレントⅣからドォン、ドォン、ドォンッと炎を噴かせた。猛る弾丸が爆発さながらに幹をぶち抜き、体長およそ3メートルの巨体に炸裂して赤褐色…

Mov.31 手の平(6)

ファスナーが開き、薄暗いテントに入って来る気配でジュリアは目覚め、丸まっていた体を起こして寝ぼけまなこをこすった。 「なんだオメー、ふるえてるうちにねむっちまったのか?」 「……シンちゃー! どこまでいってたん? うちのこと、ほっぽっといてッ!…

Mov.31 手の平(4)

――ゼェ、ハァ――ゼェ、ハァ、ハァ―― 飛び散る、雨混じりの汗―― ――ゼェェ、ハァ――ハァ、ゼェェ、ハァ―― スウェットの上下がぐしょぐしょ、靴下が泥まみれの姿が、妖魔のごとく踊り狂う木々の間を一目散、転がり、突き飛ばされながら逃げる――その背後から焼けた…

Mov.31 手の平(3)

「……分かった。あたしもそろそろ引き返すから……うん、ありがと。それじゃね」 すさぶ風と耳障りな葉ずれ、枝葉打つ雨音にかき消されぬように声を張り、コネクトを閉じたオレンジジャージ姿の紗季は、躍る栗色の髪を右手で押さえ、号泣する天候がうねり、木々…

Mov.31 手の平(5)

うねりが峠を越し、濁りが薄れた黄昏――ぽつぽつと雨粒に打たれながらユキトは紗季の肩を借りてひずんだ石段を一段一段、膝が崩れないように奥歯をかんで気を張り、疲労困憊で鈍った足を持ち上げてのぼった。やがて上がり切ると、正面――となが食堂前にバリケ…

Mov.31 手の平(2)

「……あれてきやがったな……」 無数の蛇が這うような黒雲のうねりを見上げ、ぼさぼさ金髪を吹き乱されるシンは横殴りの雨をバリアではじきながらつぶやいた。黒スポーツサンダルが泥を踏むその後ろには、ダークブルーとピンクのドームテントが並び、大きな雨粒…

Mov.31 手の平(1)

濡れて黒ずんだ木々が湿った暗緑を揺らしてざわめき、張り出した数多の根が大蛇のようにのたくる……流動の乱れに引きずられて天候は崩れ、太さを増した針状の雨がグレーのスウェット上下に突き刺さってべしょべしょにし、髪やまつ毛から滴しずくをぽたぽた落…

Mov.30 夜陰に消える絆(3)

第15回 運営委員会会議 議事録 日時:テンペスト・ライフ 180日目 10:00~11:00 場所:運営委員会事務所 3階会議室 [出席者] 新田公仁(コミュニティ・リーダー) 後藤アンジェラ(サブ・リーダー兼情報マネージャー) 佐伯修爾(軍務マネー…

Mov.30 夜陰に消える絆(2)

ふっ、と目を覚まし、紗季は闇に溶けた天井を寝ぼけまなこでぼんやり見た。ショートヘアと枕とに半ば埋もれた耳が、遠くでざわめく風の音を微かにとらえる。ベッドの中で腕をもぞもぞさせ、掛け布団の上にボフッと右手を出し、まだはっきりしない頭で時計ア…

Mov.30 夜陰に消える絆(1)

――……どうして、こんな……!―― ――……なぜ僕が……! 何でだよ……何で……!―― ――……薄情だよ、潤は……僕がこれだけ苦しんでいるのに……―― ――……みんなは、僕があいつと同じになるって……同じになって危害を加えるって……!―― ――……いいさ……その通りにしてやる……何もかもぶっ…

Mov.29 魔人(4)

『――……斯波ユキトに対する反応は、おおむね今申し上げたようなところです。ルルりん……』 むんむんとした湯気とウインドウ越しに報告し、鎌田は大理石の浴室でバラ風呂にゆったりつかるルルフにぼうっと見とれた。黄金の清流のようなブロンドをタオルで頭にま…

Mov.29 魔人(3)

「――入るわよ、斯波」 玄関ドアを開けた紗季は、充満する陰鬱な空気に思わず顔を引いた。夕暮れが近いこともあるが、掃き出し窓のカーテンがぴっちり閉められた1LDKは、別世界のように薄暗い。紗季と沢城がスリッパを履いて上がると、奥に浮かんでいたカ…

Mov.29 魔人(2)

ユキト宅を出ると、潤は詰所の監視当番に面会終了を告げて住宅地域に足を向けた。地面から不ぞろいに出た石の土台をショートブーツで踏み越え、黒髪を揺らしながら不整地地帯を足早に歩くうつむき加減の顔には、身を切る寒風かんぷうにさらされているような…

Mov.29 魔人(1)

第14回 運営委員会会議 議事録 日時:テンペスト・ライフ 178日目 18:30~20:00 場所:運営委員会事務所 3階会議室 ・ ・ ・ [議題] 1.精神に異常をきたした者たちについて 霧状物質を吸入した者たちは、魔人消滅後正気を取り戻しており、…

Mov.28 悪霧(7)

(――な、何とかしないとッ!) 気付かれた――魔人同士の反応で――暴露を恐れてひた走る視界で、出くわした狂人たちが鼻と口から霧を噴いてばたばた倒れる。噴き出たそれらは四方から集まったものとともに合流――膨れ上がった霧の塊は住宅地域を抜け、大流動の影…

Mov.28 悪霧(6)

――各自仲間と合流し、火災場所に急行して消火作業を行うとともに暴徒の鎮圧に当たれ。全員にコネクトで消火装置と催涙弾を送るので、イジゲンポケットにダウンロードして適宜使用せよ。なお、この混乱には霧状の物質が関係しているという未確認情報がある。…

Mov.28 悪霧(5)

「……ナンだ、こりゃ……」 騒ぎを耳にしてテントから飛び出したシンは、眼前に広がる住宅地域の方々から暗雲よどむ夜空にもうもうと煙が立ちのぼり、火勢が強まりつつあるのを見てうなった。シンがいるのは、運営委員会事務所の北西――広場を取り囲むプレハブ住…

Mov.28 悪霧(4)

重く、だるい、泥人形然とした肉体…… 暗くこもり、毛穴から脂汗をじわじわあふれさせる熱…… 熱くあえぎ……寝返り……そして、またあえいで…… 蜘蛛の糸を巻きつけられた虫のように……ベッドの中で上下スウェット姿がもがき、頭からかぶった掛け布団――それにのしか…

Mov.28 悪霧(3)

「……情報マネジメント局の報告によると、調査隊派遣についての批判が一部で高まっていますね」 メガネレンズにコネクトのウインドウを映して言い、後藤は執務机に肘を突いてうなだれ、組み合わせた両手が今にも崩れそうなほどずっしりと頭を乗せている新田に…

Mov.28 悪霧(2)

――……新田さんでも歯が立たなかったって……―― ――マジかよ? そいつが襲って来るかもしれないのか?―― ――分からないけど、警備隊が動いてるのはそういうことだろ?―― ――……秋さん、死んだって……佐倉さん、かわいそう……―― ――……許せないよな、その化け物……―― 不安…

Mov.28 悪霧(1)

「――よッしゃあああッッ!」 赤茶のウルフヘアを躍らせてコの字型に並ぶ黒レザーソファから立ち上がり、野卑なガッツポーズを決める韓服姿のキム――その前に浮かぶ3Dのスロットマシンがペイラインに『7』をそろえて音と光とでお祭り騒ぎし、リール上の画面…

Mov.27 白い闇(5)

「……痛い? 痛い? 痛いよねえ? 痛いんじゃない? そうだよねぇ……」 ユキトを見下ろし、魔人は独りごちながら殴られた薄い胸をさすった。 「――だけど、アンタが悪いんだよ! 殴るから! アタシを、アタシを、殴るから、殴るからッ! そうだ! そうだ! ムカ…

Mov.27 白い闇(4)

「バリアを強めて霧を防御するんだ!――久喜宮君、みんなにディフェンス・アップをッ!」 魔人が地を蹴る寸前、新田の指示が飛んで隊員たちの体がほのかな光を宿す。 〈ディフェンス・アップ〉――バリアを強化する補助魔法―― 久喜宮香に魔法をかけられた隊員た…

Mov.27 白い闇(3)

(……こ、こいつッ……!) 痩せた全裸の黒い鬼――それが最も近い表現。 石が転がる地面を黒い素足で踏み、180センチほどの細身をやや前に曲げ、赤い爪が尖る節くれ立った手をだらりと垂らす異形――まるで頂上付近数キロ四方を飲み込んでいるであろう霧そのも…

Mov.27 白い闇(2)

「――もしもしッ!」飛び付き、唾を飛ばして呼びかける新田。「もしもしッ!」 『――る――聞こ――か――』 声を上げるベリノイズでずたずたの映像――それは形を整えかけては崩れ、もがきながらやがてディープブルーのヘルメット、戦闘服調の制服を、角ばった顔をし…

Mov.27 白い闇(1)

「――はぁ……はぁ……く……!」 無秩序に茂り、幹と枝葉をくねらすうっそうとした斜面……湿った深緑のにおいにむせ、ユキトは左手の甲で額の熱い汗を拭った。先を登る新田や横の秋、後ろの紗季たち他のメンバーもたゆたう下生えに汗をぽたっ、ぽたっと滴らせ、重り…

Mov.26 調査隊派遣(4)

乾いた空気が冷えた夜半――浅い眠りから目覚め、ユキトはタオルケットの下で気だるい体をもぞもぞ動かした。残留する疲労とだるさのせいで全身が粘土のように、右手が骨肉まで鋼になったように感じられる。また入眠しようとまぶたを閉じたが、周りから聞こえ…

Mov.26 調査隊派遣(3)

薄墨でぼかしたような昼下がり――丈の短い、枯れかけた草がぽつぽつ生える大地を乾いた影の連なりが行く。隊長の新田を先頭に矢印形のフォーメーションで北北西、麓ふもとに森が広がるかすんだ山々の揺らめき目指し、黙々とステップ地帯を歩く調査隊の面々――…

Mov.26 調査隊派遣(2)

辞令 阿須見あすみ ノエル 大鳥おおとり 拓巳たくみ 北村 愛美まなみ 久喜宮くきみや 香 坂本 蓮吾れんご 沢城さわしろ 麻綾まあや 篠沢・エリサ・紗季 斯波 ユキト 秋しゅう 由大よしひろ 檀だん 耀真ようま 遠山 冴織さおり ミリセント・サカキ 以上12名…

Mov.26 調査隊派遣(1)

募集要項 テンペスト・ライフ 171日目 21時14分頃に発信者不明のボイス・コネクトが発信された遺跡の北北西約40キロ地点を調査する部隊に参加して下さる方を募集します。 応募資格:狩りで1日18000ポイント以上平均して獲得できる方 募集期間…

Mov.25 アンノウン(5)

第13回 運営委員会会議 議事録 日時:テンペスト・ライフ 171日目 10:00~11:00 場所:運営委員会事務所 3階会議室 [出席者] 新田公仁(コミュニティ・リーダー) 後藤アンジェラ(サブ・リーダー兼情報マネージャー) 佐伯修爾(軍務マネー…

Mov.25 アンノウン(4)

「かしこまりました」鎌田が神妙にうなずく。「StoreZに〈GOULDグールド〉ってカーショップがありますから、そこでルルりんにふさわしいラグジュアリーカーを購入しましょう」 「オーダーメイドじゃないとダメだよ。既成品はルルにふさわしくない…

Mov.25 アンノウン(3)

山が隆起するかのような興奮の大津波――ステージへドオオッッと押し寄せ、波頭を砕き続ける熱狂のウェーブ――喉を激しく震わせての喝采、手の骨にひびが入らんばかりの拍手を重ねて沸き返るペンライトの海原へエレガントにお辞儀をし、翼状のツインテールをき…