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REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

Mov.48 世界フィーバー(3)

『何をぼんやりしている! 早く手を貸すんだッ!』 「だ、だけど、これって仲間割れじゃないですか?」 「そうですよ」と、同じくコネクトされた紗季。「助けてもらった借りは、さっきの戦いでチャラなはずです。これ以上利用されたくありませんよ」 『分か…

Mov.48 世界フィーバー(2)

――ユン、そしてイ・ジソンのATVが薄れゆく霧から現れ、合流してアイドリング状態になると、疲れ顔のクォンはATV上から自軍メンバーがそろったことを確かめて重たげな息を漏らした。消耗に比例して霧は力を失い、もはやちょっとした煙幕でしかない。ク…

Mov.48 世界フィーバー(1)

赤い刃は、ピンクの髪に触れる寸前で止まっていた。 羅神の柄をぎりぎり握り、息を震わせてにらみつける佐伯…… それを、静かに見つめ返すジュリア…… 揺らめく霧の世界で相対する意思は、肌寒い空気をいっそう張り詰めさせた。 「……できへんよ、シューくんに…

Mov.47 よみがえる悪夢(5)

「……学校よね、ここ?」 「うん……また誰かとシンクロしているんだ……」 同年代の制服姿とすれ違い、連なる無個性なドアと窓に目をやって……ユキトは、まるで幽界といった感の薄暗い廊下を紗季と慎重に歩いた。入谷たちと戦ううちにユンたちとはぐれ、濃霧と幻…

Mov.47 よみがえる悪夢(4)

「……お前は、あのとき……」 抜き身の羅神片手にATVから降り、佐伯は流動に袖や裾を揺らされながら間合いぎりぎりに立つ少女を凝視した。くしゃくしゃのピンク髪、まだ未成熟であどけない体を飾る花柄の半袖チュニックTシャツ、ハーフパンツから出てエジプ…

Mov.47 よみがえる悪夢(3)

竜の道さながらに荒々しくくねり、うねる谷間……揺らめき、のろのろ流れる濃霧の河……視程数十メートルほどのその底――鼻口を覆うガスマスクをつけた一団が、転がる小石を時折蹴りつつ息をはずませる。スウェットパーカー&パンツのユキト、オレンジジャージの…

Mov.47 よみがえる悪夢(2)

縊死いしした父親を発見したとき、矢萩は凍り付いた。 競売にかけられた、かつて自分が所有していた工場の事務所でノブにベルトをかけ、ドアに寄りかかって土下座するように首をつっていた父……ジャージパンツを濡らし、床を汚したアルコール臭い父親の尿臭に…

Mov.47 よみがえる悪夢(1)

蒼く、薄ら寒い夜明け――全員ステルス・モードにしたハーモニー軍はキャンプを引き払って進軍を開始、冷え冷えとした木々の影がたゆたう森を抜けて峡谷に踏み入った。 指揮官の佐伯と矢萩たち将校4名がそれぞれ部下10名、オートマトン50体を率いる、数の…

Mov.46 駆り立てる思い(5)

「……どう、なるんだ……」 しわが寄った額に左手を乗せ、ひとりごちる……箸が進まぬ夕食を終え、タオルケットに包まってパイプベッドに横たわるユキトの不安を、ドア前に浮かぶカンシくんが機械的に撮影し続ける。クォンに宛がわれたドーム屋根住居の寝室……四分…

Mov.46 駆り立てる思い(4)

閉め切られ、きりきりした緊張感がよどむ集会所……議長席――黒革の椅子にどっかと座したクォンは、本黒檀のテーブルの左右に仮面じみた顔を並べる韓服姿のファン・ヨンミ、ホン・シギ、イ・ジソンたち、そして末席で断崖をのぞくように卓上を見つめるユン・ハ…

Mov.46 駆り立てる思い(3)

「あれぇ、もうビールが無いなあ~――ほら、ミセっち! 追加だよー!」 座布団を尻に敷き、あぐらをかいた入谷が空き缶を振って騒ぐと、店舗デザインのウインドウ前で腕組みした手の平大の二つ編みアレンジ少女がため息をつく。 『はぁ……あんたら、未青年だよ…

Mov.46 駆り立てる思い(2)

血がにじんだような夕焼け……荒野に伸びる長い影――揺らめく石柱群の間を赤黒く染まった小柄な姿が転がるように駆け、己をすっぽり隠せる陰へつんのめって突っ込む。葉エリー――褐色の肌から噴き出た汗でTシャツを濡らし、その上のカーディガンやガウチョパン…

Mov.46 駆り立てる思い(1)

「これは、ドローン〈レイヴン〉が撮影した映像――このキャンプから直線距離で約10キロほど南西のものだ」 議長席に座る佐伯は自分の前に表示される俯瞰映像――ドーム屋根住居の集まりと空を見上げる韓服姿を目で射、居並んでウインドウを見る部下たちに滑ら…

Mov.45 逃避行(3)

陰りを帯び、妖星がぎらつく西の空……暗さを増す峡谷をATVが徐行し、その後ろを歩くオートマトンが封印の手錠をはめられたユキトと紗季を鎖で引く。のたくり、波打つ小石だらけの道を進んだ一行はやがて開けた盆地に出、地面に影を伸ばすドーム屋根住居の…

Mov.45 逃避行(2)

「斯波ユキト、篠沢・エリサ・紗季っ!」アイドリング音に混じって峡谷に反響する、梶浦の生真面目な声。「抵抗はやめなさい! 投降すれば、悪いようにはしませんっ!」 「いきなりグレネードをぶっ放しておいて、よくもそんなことが言えるなッ!」 「お前た…

Mov.45 逃避行(1)

かすみ、たゆたう陽が西へよろめくはるか下……高さ百数十メートルに及ぶ切り立った崖の狭間に薄ら寒い影が満ち、入り組んだ川さながらに一帯を統べる。その薄暗いラビリンスの底……重い足取りで歩む紗季……斜め後ろのユキト……謎の黒い嵐に助けられ、早1カ月――…

Mov.44 不遜な進化(2)

挨拶したクォンの映像が消えてウインドウが閉じると、青筋立てた北倉がテーブルを両手でバンッと叩く。 「まったく頭に来るヤツだッッ! あの韓国系めッッッ!」 「ロベー、そのテーブルは、マホガニー製でハイパーに高いのよ。バンバン叩かないで」 「あッ…

Mov.44 不遜な進化(1)

――僕たちがルルりんと遺跡を脱出し、ヘブンズ・アイズで事前に見つけていた北西30キロ地点のフェイス・スポットに腰を落ち着けて3週間……佐伯修爾率いるハーモニーに対抗するため、ルルりんキングダムは遺跡南西に新たな拠点を構えたコリア・トンジョクと…

Mov.43 黒い力(4)

夜気を震わす、鳥獣の奇怪な鳴き声――耳を打たれ、まぶたをぴくつかせたシン・リュソンは薄く開いてのしかかる闇をぼんやり見た。どす黒い黒雲の層……悶え、ねじれて引きつったように枝葉を伸ばし、茂らせる木々を飲み込んで流れる泥状の闇……下生えの上で仰向…

Mov.43 黒い力(3)

「何だ、シャルマ少尉」 「そんなヤツ、リーダー自ら手を下す必要はありません。ボクにやらせて下さい。お願いします!」 「ちょっ、ジョアン、あんた、何言ってるの?」 「ボクは、そいつに恥をかかされた。その雪辱を果たしたいんだ」 ジョアンは拘束され…

Mov.43 黒い力(2)

軍事務所に飛び込むやカウンターを乗り越えて夜勤の兵士に殴りかかり――ユキトはコネクトする間を与えずにのして気絶させ、ライトンをつけて奥の階段をダダッと駆け下りた。 「――篠沢っ!」 ブタ鼻からの光が鉄格子越しに留置室の中を照らし、奥に洋式便器が…

Mov.43 黒い力(1)

もだえて壁側に寝返り、ユキトは暗闇で低くあえいだ。カンシくんのカメラを避けてベッドに潜った全身が病巣びょうそうになったように苦しく、脈動するたび鈍く痛む。1カ月を超える探索の疲労に加え、昼間矢萩から受けた拷問のダメージが呪いに加勢してさい…

Mov.42 青い鳥(4)

「――聞かれたことにちゃんと答えなさい!」 いら立つ潤の声が4畳半ほどの取調室に響き、向かい側にうつむいて座るエリーがいっそう体を縮める。向かい合わせた机越しに取り調べる潤――その斜め後ろには佐伯が腕組みをして立ち、峻嶮しゅんけんな顔付きでやり…

Mov.42 青い鳥(3)

まるで、冷たい沼に沈んでいるかのようだった。 掃き出し窓に引かれて乏しい陽を遮るカーテン、呼吸をするほど胸に影が蓄積していくような部屋、ローテーブル越しに鋭く見据える軍服姿の矢萩あすろともう1人の将校――梶浦翔一。自宅の薄暗いリビング――ソファ…

Mov.42 青い鳥(2)

「……それで、どうしてこんな夜更けに僕らを呼び出したのですか? ここは、軍に見張られているんですよ?」 白ローテーブルを挟んで鎌田は北倉と顔を見合わせ、並んだアーチ型窓に引かれた艶めくカーテンの向こうを気にして尻をもぞもぞさせた。羽根柄ソファ…

Mov.42 青い鳥(1)

灰色に煙ってかすみ、ぐちゃぐちゃにゆらめく彼方の赤い星……陰った双眸にぼんやり映し、ユキトは乾いた流動に押されてよろめきながら混沌と流れる地を踏んだ。その左横では紗季がひどくゆがんだ荒れ野と陰鬱な空の狭間を見つめ、ぽっかりと間を空けた後方で…

Mov.41 オーバーロード(3)

「……――っ……!」 ガクッと膝を折り、ユキトはばらけるごとく倒れた。黄昏たそがれた世界がのしかかっているのかと思うほど全身が重く、鈍痛が頭を内部からひび割れさせる。 「――斯波っ!」 駆け寄った紗季の力を借り、ずるずる四肢を動かしてどうにか起き上が…

Mov.41 オーバーロード(2)

亀裂の底で光がはかなげに生じては消え、血に飢えたかのようにうねる黒い荒波が抗う者たちを飲み込みにかかる。それを縁からのぞいていた新田は息が詰まった顔を引いて後ずさり、プロテクターでガードされる背を向けてうつむき、底を凝視したまま凍りついて…

Mov.41 オーバーロード(1)

水面みなもの像のごとく揺らめく、濁った薄曇り……うつろに燃える陽が、赤い星の輝きの方へ、西へ傾く。遺跡を出て、およそ1カ月……石柱が林立する黒砂漠を、奇岩が点在する渓谷を越え、そして今、赤褐色の荒野を踏んで流動の中をひたすら進む新田に紗季、顔…

Mov.40 畜生(2)

「……ぜぇ、はぁ――く……はぁ、はぁ……」 息を切らしてよろめき、キムはそばの大木に右手を突いて汗だくの体を支え、破裂しそうな心臓を静めようと荒い呼吸を繰り返した。いつの間にか辺りを包む薄霧の助けもあって追手の気配は無かったが、一緒に逃げたチュ・ス…

Mov.40 畜生(1)

荒々しく波打ち、逆巻く黒髪――深緑にひらめく潤の白刃が外骨格もろとも左腕を断ち、腹部を斜めに切り裂いて化け物ナナフシ――ア・ギスウにとどめを刺す。鋭く磨かれた瞳をきらめかせ、暗緑色の枝葉の間からのぞく昼下がりの曇天へのぼる光のちり――その周りで…

Mov.39 分裂の始まり(3)

「――くそっ、上等だ! あいつら、全員ぶっ殺してやるッ!」 ストレートウイスキーをグイッとあおったキムがグラスをコースターにガンと置くと、ローテーブルの向こうで横二列に並んで正座しているユンたちがビクッと体を震わせる。抗議のみじめな結果に怒り…

Mov.39 分裂の始まり(2)

「……そっか」 あだっぽい唇を舌打ちでゆがめ、ため息を噴いたルルフは胡坐あぐらから足を投げ出してボフッと仰向けになった。外れた視線を追って動いたコネクトのウインドウがベッドの天蓋てんがいをバックにし、四角い画面に映る鎌田がピンクのキャミソール…

Mov.39 分裂の始まり(1)

「――これは差別だッ! 横暴だァッ!」 濁り、よどんだ黄昏に韓服軍団とこぶしを突き上げ、キム・ジュクは九十九つくも式自動小銃を携帯して運営委員会事務所前にずらりと立つ白い壁――矢萩、潤が率いる警備隊に青筋立てて怒鳴った。だが、総勢15名のコリア…

Mov.38 約束(3)

紗季がユキトを家に連れ込むのを見届けると、新田はイジゲンポケットからアウトドア用ラウンジチェアを出して腰かけ、揺らめく雲間に見える赤い輝きを見つめながら眉根にひびを入れ、右手の平でそれを押さえた。その少し離れた横にエリーが突っ立ち、低スペ…

Mov.38 約束(2)

「新田さん、斯波に頼り過ぎてるよね……デモン・カーズのこと、知っているのに……」 「……」 壁をにらみ、ユキトは苦虫を奥歯ですり潰した。新田はスペシャル・スキル――オーバーロードを使い渋り、その分周りに負担をかけていた。 「……あの人、スペシャル・スキ…

Mov.38 約束(1)

激突――激震――赤茶けた大地、乾いた流動の震動が左右に跳ぶユキトたちをぐらつかせ、立ちすくんでいたエリーにドタッッと尻もちをつかせる。 「――エリーちゃんッ!」 炎模様鮮やかな洋弓ブレイズウインドを手に駆け寄る頭上――ゴオオ……と巨岩が重々しく上昇し…

Mov.37 未明の離脱(6)

未明の薄闇に紛れ、ユキトはひやりとする空気を乱して荒れた地面を蹴った。アラート発報する間を与えずにカンシくんを破壊し、詰所の夜勤者が居眠りしているのを確かめて走り出した彼の心臓は、濃紺の空の下で激しく高鳴った。 (……しばらく眠っていてくれよ…

Mov.37 未明の離脱(5)

エレくしょん・エレンによる電子投票を経て佐伯がリーダーに正式就任した日の夜、ユキトはトイレに入ってカンシくんのカメラから逃れ、便座に腰かけ、コネクトの音量を絞ってから新田にコールした。ほどなく回線がつながり、3分割画面中央に新田、そして彼…

Mov.37 未明の離脱(4)

会議散会後、運営委員会事務所を出た佐伯は、事務所前で照明灯に照らされながら待機していた潤と松川の高揚に迎えられた。 「おめでとうございます」潤が祝う。「佐伯隊長――いえ、リーダー」 「みんな喜んでますよ! コネクトをチェックして下さい!」 顔を…

Mov.37 未明の離脱(3)

「ふん、佐伯が暫定リーダーか……」 高級ぶった黒革ソファにもたれてグラスを傾け、キム・ジュクはストレート・ウイスキーの焼けるような濃厚さを味わいながら鼻で笑った。赤瓦台のリビングダイニング――コの字型に置かれたソファには、キムの他にチュ・スオと…

Mov.37 未明の離脱(2)

「……これって……」 ガバッと掛け布団をはねのけて起き、ユキトは暗闇に浮かぶコネクトのウインドウ――表示されたメッセージを食い入るように見つめた。 「――『ディテオ討伐隊参加者募集』……『希望者は、明日19時までに新田へコネクト――』……独自にやるつもり…

Mov.37 未明の離脱(1)

時刻は21:06―― マスコットキャラのエレンが乗り乗りに腕を振ってモンキーダンスを踊る後ろ――『集計中』と大きく表示されるウインドウが、ちょうど議長席でこぶしを固めて固唾を呑む新田の正面――運営委員会事務所3階会議室後方にスクリーンサイズで開き…

Mov.36 きしむ会議(2)

――新田リーダーは、自分の都合で討伐隊派遣を急いでいるだけ! コミュニティのことなんか、これっぽっちも考えていないっ!―― ――調査隊を強引に派遣して犠牲者を出し、自らのコミュニティ運営の甘さによってラー・ハブ襲撃による被害を甚大にしていながら、…

Mov.36 きしむ会議(1)

「俺は、討伐隊を派遣するべきだと思う」 開口一番押し付けるように言い、テーブルに両こぶしを置いて身を乗り出した新田が一同を見回す。アップデートのアナウンス後、新田がすぐさま強引に翌朝開催を決めた会議に出席する委員たちは、書記のエリーが小さな…

Mov.35 アップデート(5)

「……アップデート?」 手錠の鎖をカチャカチャ鳴らして寝ぼけまなこをこすり、ユキトはベッド上から暗闇に浮かぶ光球を見上げた。 『そうです、斯波ユキト』 いきなり部屋に現れて叩き起したことを悪びれる様子も無く、ワンは淡々ときらめいた。 『――封印の…

Mov.35 アップデート(3)

「――何なんだ、貴様らァッ!」 カンシくんのアラートを受けて仲間と赤瓦台せきがだいを飛び出したキムは、ライトンをカッと光らせてずかずか近付いて来る警備隊を阻み、青筋立てて怒鳴りつけた。キムの左右にはチュ・スオとオ・ムミョンが立ち、コネクトで呼…

Mov.35 アップデート(2)

「――こ、こいつらが、コンサートを中止しろと言うんですッッ!」 「貴様らは、公序良俗こうじょりょうぞくに反しているッ!」 三人衆と警備隊員の前で矢萩は居丈高に怒鳴り、口の前に持って来た拡声器でルルフめがけて響かせた。 『――ショップでの購入額でラ…

Mov.35 アップデート(1)

「……素晴らしい……素晴らし過ぎですよ、ルルりん。あなたを称えるルルラーと予備軍が、こんなにもたくさん……ふふふ……」 熱気を放ってごった返すステージ前を舞台袖からのぞき、鎌田は背でルルフの金シルエットが踊るTシャツ姿を震わせた。夜の帳とばりの下、…

Mov.34 私刑(2)

「ステルス状態で、西の砂漠地帯をふらついていました」 松川が手柄顔で報告し、うなだれ、背中を曲げた姿を見下ろして興奮気味に続ける。 「――口臭からすると、こいつ、SOMAを吸っていたみたいですよ」 周囲につられ、警備隊事務所前に紗季たちと流れた…