REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

血と肉と

(8)

雪に点々と印される血の跡が、瞬く間に白く消されていく。いくらか弱まったとはいえ、まだ強く吹き荒ぶ雪の中をシグルは血まみれの肉体を引きずり、額の傷から流れる血で視界を赤く染められながら、這うように一歩一歩山をのぼっていた。 その頭には、もはや…

(7)

(――!) シグルは足を止めた。視線の先に影があった。口から蒸気を噴き出して急斜面に立つ、頭から角を生やした黒い獣―― 「シグル、か……!」 殺気みなぎる声が飛び、猛吹雪からオージュが現れる。それに続いてフルーたちも姿を現し、シグルは左右に広がった…

(6)

闇に埋もれた針葉樹林を揺さぶって、夜が雪とともに飛んでいく。巨躯が冷え切って重くなったシグルの頭上で雪雲の層が黒から蒼に変わり始め、寝ずの番をする見張り役たちのあくびが風のうなりに混じって聞こえた。 やがて未明を迎えた林の中央で、シカたちが…

(5)

吹雪で濁った麓――分厚いねずみ色の雲のはるか下、林が少し開けた場所で開かれた集会では、長老、その右隣に鼻高々と立つオージュ、卑しげな笑みをたたえたフルーを始めとする雄たちに囲まれたシグルが、ぶつかるとげとげしい雪から目を伏せ、口からかすれた…

(4)

未明、シグルは硬い雪を掘り、秋のうちに土の下に蓄えておいた木の実で軽く腹ごしらえを済ませると、仲間に気付かれないように林を抜け出して吹雪の山をのぼった。 ――あの子オオカミを、殺す―― 痛みが残る右後ろ足を心持ち引きずり、拒むように枝を伸ばす低…

(3)

――あのとき、巣穴からふらふら出てきたのは、見るからに弱って足取りもおぼつかない子オオカミだった。まだ生後数十日くらい――野ウサギより一回り大きく、薄灰色の柔らかな毛並みをした幼子は、どうやら病んだ熱に浮かされているらしくぼうっとしていたが、…

(2)

「そうか……よくやったな」 老シカは少し離れて前に立つシグルをしわがれ声でねぎらい、吹き付ける雪に顔のしわを深めた。風雪になぶられる針葉樹林の少し開けた場所で、くすんだ毛並みの老シカを要かなめに十数頭の雄シカがシグルを囲み、オオカミ殺しを始め…

(1)

逆稲妻形の角を伝った血が風に飛び、かき乱された雪の上に落ちる。引き裂くような吹雪がすべてを灰色に煙らせ、そそり立つ針葉樹と落葉した低木の群れを侵した森で焼き切れそうな息を吐く雌オオカミは、角の先を赤く汚して自分と対峙する雄シカをかすんだ双…