REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©NaG∀T∴

Mov.43 黒い力(4)

 夜気を震わす、鳥獣の奇怪な鳴き声――耳を打たれ、まぶたをぴくつかせたシン・リュソンは薄く開いてのしかかる闇をぼんやり見た。どす黒い黒雲の層……悶え、ねじれて引きつったように枝葉を伸ばし、茂らせる木々を飲み込んで流れる泥状の闇……下生えの上で仰向けのずたぼろをとらえた、深海の底に沈んでいる錯覚……

 

「……」

 

 投げ出されていた右手が、のろのろ這いずる……後ろ手に拘束していた封印の手錠は、もう無かった。佐伯のリンチから逃れて森の奥へ走り、出くわしたリュ・パスに深手を負わされながら斧状の角で巧みに手錠の鎖を断ち切ったシンは、襲い来るモンスターと死闘を続けながら異次元を思わせる闇の奥へ、奥へと流されていた。

 

「……」

 

 奇妙な気配を感じてごろりと横を向き、一寸先も見えない闇を見据えながら起き上がる……傷だらけ、血まみれの頬や首に寒気が走り、Vネックの半袖Tシャツから出た腕にゾワッと鳥肌が立つ。瀕死さながらの動きで立ち上がり、ずたぼろのカーゴパンツとサンダルをはいた足で前のめりの体を支え、ライトンを起動させる――

 

「……!」

 

 妖魔の舞踏会を思わせる森の揺らめき……その中に黒い塊――高さ6メートルに達する巨岩のような物体が浮かび上がる。それはライトンの光に刺激されて動き出すと、ガサガサ、バキバキッと枝を折り、ベキベキィッと幹をへし折って上へ、左右へと膨れた。

 

 黒い巨獣――

 

 巨樹の幹並みに太い足で巨体を支え、筋肉が異様に盛り上がった両腕から象をわしづかみにできるほどでかい手を生やす、全長10メートル強ある毛むくじゃらの怪物――それは、跳ねた尻尾で地面をドォンッと打つと両手で邪魔な木々を次々折ってズンッ、ズンッと前進、闇が牙をむいたようにも見えるほど口をばっくり裂けさせ、はしゃぐエンジン音に似た重いうなり声を響かせた。

 

「……ンだ、このデカブツ……!」

『〈ニガ・モーズ〉です。おめでとうございます』

 

 ぼさぼさ髪の数メートル上――黄金の光球がフッと現れ、暗闇できらめく。

 

『――あなたはラッキーです、シン・リュソン。ニガ・モーズはレアモンスター。宝くじの一等が当たる確率でしか遭遇できません』

「……だから、どうだってんだ……!」

 

 うめくようにつぶやき、虚無的にゆがんだ顔が皮肉っぽく引きつる。

 

「……なにか、いいコトでもあるってのかよ……!」

『はい。あなたの望みをかなえるチャンスです』

「……あ?……」

『破壊。それが、吉原ジュリアを失ったあなたに唯一残るもの。違いますか?』

「!……」

『ニガ・モーズを倒すと、レアアイテムが得られます。それは、あなたに大きな力を与えます。世界を相手にできる力を。手負いのあなたではほとんど勝ち目はありませんが、命をかけてみますか?』

「……おもしれえ……」

 

 うなり声を高めて闇の森をガタガタ震わせ、流動を波立たせる巨獣を見上げたシンは出現させたバイオレントⅣを右手で握り、破滅的な笑みを浮かべて構えた。その周りをアサルトライフルやグレネードランチャー、対戦車ロケット弾といった銃火器がごてごて囲む。

 

「……ぶっコワしてやるよ、ナニもかも……ッ!――」

 

 呪いを吐き、シンは特攻をかけるごとく駆け出してトリガーを引いた。

Mov.43 黒い力(3)

「何だ、シャルマ少尉」

「そんなヤツ、リーダー自ら手を下す必要はありません。ボクにやらせて下さい。お願いします!」

「ちょっ、ジョアン、あんた、何言ってるの?」

「ボクは、そいつに恥をかかされた。その雪辱を果たしたいんだ」

 

 ジョアンは拘束されているルルフをちらっと見、ユキトをにらんだ。

 

「……ジョアン……やっぱり、あのときのことを……」

「男のprideがかかっているんです! お願いします、佐伯リーダーッ!」

「いいだろう。見事恥をすすいで見せろ、ジョアン・シャルマ」

「ありがとうございますッ、佐伯リーダーッ!」

 

 佐伯は兵士たちを動かし、ユキトたち3人をぐるりと囲ませた。その輪の中でユキトはこぶしを僅かに緩め、胸苦しさを覚えながら相対するジョアンを見つめた。

 

「……本気なのか……?」

「当然だろ。fearしたのか?」

「やめてよ、ジョアン! 何こじらせてんのよっ?」

「何もこじらせてなんかいない。これは、傷付いた誇りをrecoveryするためなんだっ!」

「……離れてろ、篠沢……」

 

 身構えて全身に光を帯びさせると、ジョアンは両手を軽く広げて深く呼吸した。と、その軍服姿の左右にラクビーボール大の、妖精の巻貝とでも形容すべき物体が二つずつ――計4体が『殻頂』をターゲットに向けて浮かぶ。

 

「これは、新たに覚醒したスペシャル・スキル〈フェアリー・スネイル〉だ! 行くぞッ!――」

 

 叫ぶやいなや『巻貝』がアクロバット、ジグザグとトリッキーな飛行をギュンギュン始め、構えを向け、頭を巡らせて目で追うユキトの死角に回った1体が『殻頂』からボッと火球を放つ。

 

「――くッッ!」

 

 背中への一撃――バリアで軽減されてなお火球――ファイヤー・ブリッドは、スウェットシャツを焦がしてその下の皮膚を軽く焼き、焦げ臭さで鼻を突いた。熱傷にうめいてつんのめったところへ他のフェアリーが素早くたたみかけ、連続する火球の衝撃がスウェット姿をどんどん焦がして前後左右に揺らす。

 

「――best conditionじゃないからって手加減しないぞ! 恨むのなら、調子を崩している自分を恨めッッ!――」

 

 ジョアンの前方に炎に包まれたフェアリーがサッと集結――大車輪のように回転して炎の輪を成し、身構える相手めがけて一斉に飛び出して一つの炎塊になる。膝を抱えて丸まった人間大の火炎球は迎撃する黒いこぶしと激突して競り、はじいてユキトの光る胸に炸裂した。

 

「――ぐぅおわァッ!」

 

 のけぞって後ろに倒れ、頭と背中を地面にしたたか打ちつけて――悶え、うめいて起きる体は、胸から上腹部にかけてスウェットシャツと皮膚が黒く焼け焦げ、べろりとむけている。体がずしりと重く、時折めまいが不意打ちしてくるとはいえ、仮にもデモニック・バーストしたパワーに競り勝ち、バリアを破ってこれほどのダメージを与えてくるのは、ユキトには予想外だった。

 

「やめなさいよ、ジョ――!」

 

 たまらずブレイズウインドを出した紗季の右肩に弾丸がヒット、矢がタブをはめた右手から地面に落ちる。痛みに顔をしかめて右腕を垂らす紗季の視線は、ハンドガンを構えた潤の冷酷な目とぶつかった。

 

「……加賀美さん……!」

「邪魔はさせないわ。――やるなら早くやって、シャルマ少尉」

「OK……――ポーションなんか使わせないぞ、ユキト。恥をかかせてくれた報いを受けろッ!」

「――ッ!」

 

 フェアリーを包む炎がボオッと火力を増し、ユキトのところまで伝わる熱が汗だらだらの顔をジリジリ焼く。

 

(――このままじゃ――ッッ――)

 

 アクセルをドンと踏み込むごとく飛び出し、急加速する前のめりのスウェット姿――炎のフェアリーたちが迎撃にかかろうとするより早く、ユキトはアンダースローのフォームで地面に黒いこぶしを放った。

 

「――Ohッッ?」

 

 こぶしが地面を削ってフェアリーの間から土を飛ばし、ジョアンの目を一瞬くらませてコントロールを乱す。その隙にユキトは跳び、鈍い動きの1体を思いっきり横――兵士の囲みへ殴り飛ばした。

 

「――走れッ、篠沢ッ!」

 

 叫び、ユキトはパニクったように火を噴くフェアリーに慌てるところへ突っ込むと、光が燃える右こぶしで連打した。ブレイキング・バッシュ――こぶしの流星群が兵士たちを殴り飛ばして突破口を開いたとき、それに気を取られた中塚に北倉が背中でドッと体当たりして逃れ、間髪入れずに筋肉質の体を入谷にぶつけてルルフの手錠をつかんでいた手を放させる。自由になったルルフが兵士の囲みを脱兎のごとく抜けてルルラーの群れに飛び込むと、それをきっかけに彼女を守ろうとするルルラーと取り戻そうとする軍が衝突――軍事務所前は、二つの大波が砕き合ってしぶきを飛ばす争いの巷と化した。その混乱に助けられたユキトは紗季と広場を突っ切って石壁の名残を飛び越え、住宅地域に飛び込んでプレハブハウスの間を全速力で駆けた。

 

「――遺跡を出るぞ! 付いて来れるよなっ!」

「もちろんよ。あんたこそ、体は大丈夫なの?」

「それどころじゃない……! とにかく逃げ切らないと!」

 

 肉体のエンジンフル回転――2人は住宅地域を西に抜け、石垣が崩れて坂になったところを駆け下りて真っ暗なフィールドに出ると旅でも役立った暗視スコープを装着し、小石を蹴りながら黒い岩石砂漠をひた走った。逆方向に走っていれば森に逃げ込むこともできたのだが、あいにく東側は警備隊事務所が塞ぎ、南側にはジョアンがいて、フェアリーを蹴り飛ばして突破口を開いた西側に無我夢中で走った結果なので後悔しても仕方なかった。

 

「――はぁ、はぁ……――んッ?」

 

 微かなうなりに振り返ったユキトの目に飛び込む、闇でぎらつく獣の目然とした光の揺らめき――うなり声を響かせてぐんぐん距離を縮めるそれらはやがてヘッドライトの正体を現し、ATV6台が土煙を上げてグオオッッとユキトたちの左右に回る。そのうちの1台には、ハンドルを握る佐伯の姿があった。

 

「――斯波、前ッッ!」

 

 十数メートル前に躍り出た1台の後部に立つ、長い髪をなびかせる影――起動させたライトンでそれを照らしたユキトは、細い眉を凄絶につり上げた潤が八相の構えを取るのを見て、脳天を割られたようなショックを受けた。

 

「――じゅ、潤――うわッッ!――」

 

 動揺で足がもつれたユキトが地面に突っ込み、紗季が急停止して駆け寄るのと、仲間が運転するATVから潤が跳んだのは、ほぼ同時――

 

 斜めに振り下ろされる白刃――

 目を見開くユキト――

 やめてと叫ぶ紗季――

 

 三者の意識が激しく交錯したそのとき、突如発生した爆発さながらの波動が手から刀を消して潤を紙屑のようにふっ飛ばし、左右のATVを衝撃波であおってドン、ドンッッ――と横転させる。

 

 黒い光の狂乱――巨大な手で一帯を凶暴にかき乱すがごとき嵐――

 

 数分、あるいはそれ以上に渡った激動がようやく収まり、流動もろとも飛ばされないように地面に伏せていた佐伯たちが顔を上げてライトンを巡らせたとき、辺りにユキトと紗季の姿は見当たらなかった。

Mov.43 黒い力(2)

 軍事務所に飛び込むやカウンターを乗り越えて夜勤の兵士に殴りかかり――ユキトはコネクトする間を与えずにのして気絶させ、ライトンをつけて奥の階段をダダッと駆け下りた。

 

「――篠沢っ!」

 

 ブタ鼻からの光が鉄格子越しに留置室の中を照らし、奥に洋式便器がある4畳ほどの小部屋で毛布に包まっている紗季を浮かび上がらせる。ユキトはすぐに右こぶしで扉を破壊し、驚いて飛び起きるオレンジジャージ姿のそばにしゃがんだ。

 

「斯波! あんた、どうして?」

「助けに来たんだ。早く逃げよう!」

「だけど、ここを出てどうするの?」と、紗季が栗色のショートヘアを撫で付ける。

「とにかく、遺跡を出るんだ。篠沢だって、こんな扱いもう嫌――」

 

 急なめまいに崩れ、ユキトは両膝と右手をドッと床に突いた。意識がぐにゃりとひずんで暗くなり、そのまま消えそうになる。

 

「斯波! 大丈夫っ?」

「……あ、ああ……!」

 

 眉根をきつく寄せ、頭を左右に振って意識をつなぎ止めると、黒い異形と左手とが紗季の手首にはまる封印の手錠をつかんで力任せに外し、脇にバラバラッと投げ捨てる。

 

「……ほっといてよかったんだよ、あたしなんか……」

「そうはいくか……僕のせいで新田さんがあんなことにならなければ、篠沢たちはこんな目に遭っていなかったかもしれないんだ……」

「斯波……分かったわ、早く逃げましょ。エリーちゃんたちが釈放されたって聞いたけど、本当なの?」

「そうらしい。高峰さんが教えてくれたよ。彼女が僕を逃がしてくれたんだ」

「高峰さんが?」

「ルルりんキングダムもハーモニーから離脱するつもりらしい。僕のことが放っておけなかったから、助けたんだって」

「ふぅん……」

「さ、早く行こう!」

「そうだね……」

 

 いぶかる紗季を急かし、ユキトは砂が詰まったように重くだるい体を押し、先に留置室を出て階段をのぼった。1階に出て角を曲がると左手にカウンターがあり、その向こう――並ぶデスクの間には、ひっくり返ったイスと気絶した兵士が見える。ライトンを消したユキトは早く軍の手の届かないところに逃げたい気持ちに駆られて足を速め、開けっ放しの出入り口から飛び出した。

 

「――ッッ――!」

 

 攻撃的な光が目をくらませてスニーカーを急停止させ、続いて出て来た紗季をたじろがせる。事務所を背にした両名に、食らいつくような弧から放たれるライトンの光――待ち構えていた、ざっと50人ほどの兵士のまなざしがギラギラと集中していた。

 

「……な、何……?」

「ど……どうなってるの……?」

「斯波」

 

 黒い右手で光を遮っていたユキトは銃声に似た呼び声にビクッとし、真っ正面の光源の横に腕組みした佐伯を認めて思わずよろめいた。視線を横に振れさせると、佐伯の左右には後藤アンジェラと冷たい顔付きの潤が立ち、少し離れて矢萩と三人衆、そして後ろ手に拘束されているルルフたちのひどい渋面がある。

 

「高峰さん! 何が……?」

「ふん、やっぱりイジンはバカだよな」

 

 矢萩が、入谷に押さえられたルルフにうねった頭を傾ける。

 

「――泳がされていたとも知らずに。俺たちを甘く見やがって」

「ホーントですよねぇ! アハハハハッ!」

 

 入谷がキンキン笑い、北倉、鎌田をそれぞれ押さえる中塚と真木が嘲笑を重ねる。薄闇で黒ずんだ軍服姿の後方には、ルルフが拘束されたと知って駆け付けた生粋のルルラー100名余りが群れていたが、佐伯以下精鋭ぞろいに臆して固まっていた。

 

「これで、ルルりんキングダムはお終いです」後藤が横目でルルフたちを見る。「許可なくハーモニーを抜けようとするのも問題ですが、何よりも兵士に暴行を加え、軍の管理下にある者を解き放って軍事務所を襲撃させたのは重大な犯罪。そのような組織並びに中心人物たちは、徹底的に処罰されてしかるべきでしょう」

「そ、そんなイジワルしないで下さいよぉ~」ルルフの猫撫で声。「ちょっとした出来心なんですよ、佐伯リーダー~ 大目に見て下さいよ~」

 

 何とかチャームで惑わそうとするも、腕組みをした佐伯は目もくれず、代わって潤が手厳しくはねのける。

 

「みっともないわね。気色の悪い声を出すのはやめなさい!」

「なっ……あんた、ルルにそんな口を利いて! ただじゃ済まないわよッ!」

「やれるものなら、やってみなさい。そんなざまで何かできるのならね」

「アハハッ! 残念だね、ツインテールオバちゃ~ん!」と、ルルフより年若い入谷が小馬鹿にする。

「くッ、くそおッッッ! 俺たちが付いていながら申し訳ありませんッッッ、ルルりんッッッッ!」

「……無念です……申し訳、ありません……!」

 

 身をよじって悔しがる北倉とうなだれた鎌田の顔は腫れ上がって血で汚れ、『HYPER PRETTY』の金文字入りTシャツは、あちこち無残に裂けていた。距離を取ったままのルルラー群から非難が散発的に上がったが、それも振り返った兵士にじろりとにらまれると、たちまち消えてしまった。

 

「諦めろ、斯波」

「佐伯さん……」

 

 斜め後ろに紗季を感じ、ユキトは下げた足をギリギリ戻して汗ばむ左右のこぶしに遮二無二力を込めた。屈し、矢萩のような奴が交じっている軍に紗季を返す訳にはいかない――その思いが、地面を踏み締めさせた。

 

「……できません……!」

「無茶だよ、斯波……この顔ぶれじゃ、勝ち目ないよ……」

「それに、お前は本調子ではなさそうだ。デモン・カーズのせいなのだろう? 無理をしていたずらに命を縮めることはない。おとなしく降参するんだ」

「嫌ですッ! 僕たちは遺跡を出て行くんだ! そこをどいて下さいッ!」

 

 黒い塊が上がり、帯びた光の炎を揺らめかせる。それを見た兵士やルルラー、騒ぎを聞き付けて集まって来た野次馬たちが一触即発の気配にどよめく。

 

「聞き分けが無いようだな」

「どいて下さいって言ってるんですッ!」

「斯波、もういいよ! あんたの命を削ることなんかないよ!」

「いいんだ、篠沢。僕が自分で決めたことなんだから……!」

「……仕方ない」

 

 組まれていた腕が解けて潤たちが左右に離れ、止めようとする紗季を退けたユキトがファイティングポーズを取る。だが、得物を握る前から佐伯は烈々たる気で圧倒し、慄然とする少年の全身から冷たい汗を噴き出させた。

 

(……く、踏み込めないッ……!)

「覚悟はいいな、斯波――」

「Waitですッ、リーダーッッ!」

 

 兵士の群れ――ユキトから見て左手側から待ったがかかり、ジョアンが素早く前に出て来て直立する。

Mov.43 黒い力(1)

 もだえて壁側に寝返り、ユキトは暗闇で低くあえいだ。カンシくんのカメラを避けてベッドに潜った全身が病巣びょうそうになったように苦しく、脈動するたび鈍く痛む。1カ月を超える探索の疲労に加え、昼間矢萩から受けた拷問のダメージが呪いに加勢してさいなんでいた。

 

(……くそっ……)

 

 両手首、とくに左よりも一回り太い右手首から伝わる手錠の冷たさ……苦痛が恐ろしい運命を思い知らせ、涙をにじませてあがく少年を闇の奥底へずるずる引きずっていく。

 

(……篠沢……)

 

 閉じたまぶたの裏に紗季を思い浮かべ、ユキトは歯をギリギリかみ締め、こぶしを作った。

 

(……お前も、ひどい目に遭わされてるのか……?)

 

 案じるほど動悸がひどくなり、助けに行かなきゃという思いが燃え上がりかける。だが、封印の手錠で無力にされ、カンシくんを通じて詰所の兵士に見張られている状況が――デモン・カーズの執拗な責苦が、それを暗い泥沼の底に沈め、埋めてしまおうとする。

 

(……篠沢……く……!……)

「――はーい! 起っきなさぁーいっ!」

 

 照明スイッチが入る音とともに無遠慮な声が掛け布団越しに炸裂、足音がずかずか近付く。びっくりして飛び起きたユキトは、照明の光を浴びてブロンドのツインテールとロリータ・ワンピース姿をきらめかせるルルフを前にぽかんとした。

 

「た、高峰さん、どうしてここに……?」

「『ルルりん』でしょ、ユッキー。ほらほら、ルルへのご挨拶は?」

「え、ハ、ハイパープリティ……そ、それより、何をしているの?」

「決まってるでしょ~ 助けに来てあげたのよ」

「助けにって……」

 

 ユキトの視線が、ルルフの斜め後ろに浮かぶ円柱型の監視装置――カンシくんに転じる。

 

「――ここは見張られているんだ。すぐに軍の連中が飛んで来るよ!」

「ユッキー、ルルを誰だと思っているの? ルルりんキングダムの高峰ルルフ様よ? ルルフパレスを見張っていたヤツはもちろん、詰所にいるのだって、ほら」

 

 腰に手を当てたルルフがコネクトを開き、ウインドウをユキトに見えるように回転させてそばへ送る。そこには封印の手錠と猿ぐつわをはめられて床に転がる2人の兵士と、得意顔の北倉&鎌田がセットで映っていた。そして画面が切り替わると、ルルフパレスを監視していた兵士がルルラーたちの手で同じように拘束されている映像が映る。そのどちらも夜陰に乗じた不意打ちの成果だった。

 

「――と、こんな具合。封印の手錠でアプリも使えなくなってるから、あのカンシくんはただの筒よ。さあ、それじゃ手錠を外してあげるから、手を前に出して~」

「あ、うん……」

 

 言われた通りに出すと、手錠はイジゲンポケットから取り出された鍵――詰所の見張りが持っていた物――で外され、掛け布団の上にぽいと放り投げられた。

 

「これでよしっ。自由だよ、ユッキー」

「だけど、どうして……こんなことしたら軍――佐伯さんを敵にしてしまうよ?」

「いいの、いいの。ルルたちは遺跡を出て行くから」

「え? 遺跡を出るって、ハーモニーを抜けるの?」

「そうだよ。ユッキーたちはまだ知らないかもだけど、コリア・トンジョクも一騒動起こして出て行ったんだよ」

「コリア・トンジョクが?」

「そ。だから、ルルたちもそうするの。ガチガチで息苦しいんだもん。こっそり出て行くつもりだったけど、ユッキーをこのままにしておくのはハイパーに可哀想だから、助けに来てあげたんだ~」

 

 ルルフは膨れてごつごつした黒い右手をちらっと見、ユキトを魔石のような瞳にとらえて、「そう言えば……」と紗季たちの話を持ち出した。

 

「――葉さんと新田さんは釈放されたけど、篠沢さんはまだ軍事務所地下の留置場にいるらしいよ。彼女、気が強いからね~ 反感買ってひどいことされていなければいいけど……」

「――!」

「仲間なんだから助けに行きなさいよ、ユッキー。チャンスは今しかないよ。軍の連中が、これに気付いてわらわら出て来たらアウトだと思うよ~」

 

 直視されたユキトはまぶたをカッと上げ、目を転じて見つめた右手を握った。体の内部では依然重いだるさと鈍痛とが荒れていたが、それを押してベッドから出、紗季を助けたい思いに後押しされてルルフの横に立つ。

 

「ありがとう……高峰さんたちも早く逃げた方がいいよ」

「もちろん、そのつもりだよ。ところでユッキー、黒の十字架のことは何もつかんでいないんだよね?」

「……やっぱり、それが気になるんだね。知らないよ、何も……残念だけど……」

「……そうなんだね。だったらいいの。それじゃ、頑張ってね~」

「軍事務所地下の留置場だね……じゃ、行くよ」

「はーい。行ってらっしゃーい」

 

 言うが早いか駆け出し、パッとスニーカーを履いて玄関から飛び出して行くユキト――手を振って見送ったルルフはほくそ笑み、コネクトを再び開いて詰所にいる北倉と鎌田を呼び出した。

 

「うまくいったわよ」

『みたいですね。南に走って行くのが窓から見えましたよ』

『さすが、ルルりんッッ! すべて目論見通りですねッッ!』

「ふふぅん。軍がユッキーたちに気を取られている隙に遺跡から脱出する――ハイパーに完璧なプランだね。それにしても、ハーモニー軍もちょろいね。拍子抜けするくらい簡単に運ぶんだもん」

『それもこれも何もかもすべてルルりんがハイパーだからですッッ! 美しく賢く大胆で、天に愛されているルルりんは敵なしですよッッッ!』

『そうですね。――さ、ルルラーたちにコネクトしてエクソダスを始めましょう!』

「オッケー! 窮屈なハーモニーにさよならして新天地にゴー!――ハイパーにワクワクしちゃうなあ!」

 

 ぴょんぴょん跳ねてツインテールの翼を踊らせるルルフはユキト宅を出、詰所から出て来た鎌田たちと暗がりで合流すると、発光するコネクトのウインドウに嬉々とした顔を照らされながらルルラーたちを呼んだ。

Mov.42 青い鳥(4)

「――聞かれたことにちゃんと答えなさい!」

 

 いら立つ潤の声が4畳半ほどの取調室に響き、向かい側にうつむいて座るエリーがいっそう体を縮める。向かい合わせた机越しに取り調べる潤――その斜め後ろには佐伯が腕組みをして立ち、峻嶮しゅんけんな顔付きでやり取りをじっと見つめる。私服のエリーと白い軍服姿の図は、経緯を知らない者が見たら街頭で補導された少女が事情聴取されているようにも見えるだろう。

 

「……知っていることをすべて話しなさいと言っているの」

 

 佐伯を気にした潤は顔のしゅを薄くし、自分の左側に浮かんでいるボイスレコーダーアプリ――ミミがーを横目でちらっと見て視線を戻した。

 

「――例えディテオを見つけられなかったとしても、赤い星を追っているうちに何か気付いたことがあるでしょう?」

「……に、新田さんは、どうしているんですか……?」

「また、それ……!」

 

 机上の右手をこぶしにする潤にエリーは顔を上げ、おずおずと言った。

 

「……そろそろ、おトイレの時間なんです……もじもじするのがサインなんです……だから――」

「そんな話をしているんじゃないの!」

「だ、だって、に、新田さんは……新田さんは1人じゃ何も……わたしがお世話しないと……」

「あなたね、頭の中にはそれしかないの?」

「加賀美」

 

 佐伯が腕組みを解いてたしなめ、厳しい表情のままエリーに近付いて斜め上から見据える。

 

「新田氏の面倒は部下に見させている。今のところはな」

「い、いつになったら、ここから出してくれるんですか? 新田さんのところに行かせてくれるんですか?」

「……自分は、彼を死なせてやろうかと考えている」

「えっ! な、な、何を言っているんですかっ?」

「君は――」

 

 佐伯は再び腕を組み、辛辣な口調で言った。

 

「――生けるしかばねのような状態で生き続けることが良いと思うのか? 己の執着や自己満足を抜きにして」

「あ、当たり前じゃないですかっ! 新田さんは生きているんです! 生きているんだから、生きなきゃ! そ、それに、わたしは新田さんをリアルに戻してあげたいんですっ! 奥さんや赤ちゃんがいるところに帰ってもらいたいんですっ!」

「アストラルがあんな状態では、リアル復活してもおそらく植物状態だぞ?」

「そ、それでも、やらなきゃ――わたしが、やらなきゃいけないんですッッ!」

 

 涙ぐみ、裏返った声で叫ぶエリーに潤は閉口し、佐伯は唇を結んだ。人見知りで、内気で、いつも新田の陰に隠れていた少女が、これほど激しく感情をあらわにするのは初めてだった。

 

「……気持ちはよく分かった。こちらの要求に応えてくれるのなら、君と彼を自由にすると約束しよう」

「ほっ、本当ですか?」

「コミュニティ・リーダーの名誉にかけて誓おう。だから話してくれ。どんな些細なことでも推測でも構わない。君が赤い星を追っている間に気付いたこと、すべて」

「……わ、分かりました」

 

 エリーは真剣に見上げてごくっと唾を飲み、一呼吸間を置いてためらいがちに唇を動かした。

 

「……青い鳥って童話、知ってますか?」

「知っている。下の妹が、小さい頃よく読んでいたからな。探していた青い鳥は、自分たちのすぐそばにいたという話だろう?」

「そうです……」

 

 僅かに逡巡、そして、これはあくまでも自分の推測に過ぎないと前置きがされる。

 

「……わたしたちは赤い星を目印に旅をし、その結果遺跡に戻って来ました……これって、青い鳥の話と似ていると思うんです。つまり、その……黒い十字架を持つモンスターは……この遺跡にいるのかもしれません……」

Mov.42 青い鳥(3)

 まるで、冷たい沼に沈んでいるかのようだった。

 掃き出し窓に引かれて乏しい陽を遮るカーテン、呼吸をするほど胸に影が蓄積していくような部屋、ローテーブル越しに鋭く見据える軍服姿の矢萩あすろともう1人の将校――梶浦翔一。自宅の薄暗いリビング――ソファに座らされた上下スウェットのユキトは、グレーの太ももの間に手錠がはまった手を挟み、黒ずんだテーブルにすり減ったまなざしを落としていた。

 

「何遍言わせるんだ、斯波」腕組みした矢萩がいらつく。「お前たちが得たディテオと黒の十字架に関する情報を残らず吐け」

「だから、何も知らないんですって……昨日から、ずっとそう言ってるじゃないですか……!」

 

 上目遣いでくすぶるように答える相手にため息をつき、矢萩はメガネ男子の梶浦に目をやった。

 

「斯波君……」梶浦が諭す。「我々が恐れるのは、君たちのつかんだ情報を野心家や小悪党どもが先に知ることなんだ。連中が我々を出し抜くようなことがあったら、取り返しのつかないことになりかねないんだよ」

「逆にこっちが先に情報をつかんで動けば、クズどもを二度と反抗できなくすることだってできる。黒の十字架にはとんでもない力があるそうだからな。お前、ハーモニーの平和と安定のために素直にしゃべろうとか思わないのか?」

「知らないって言ってるでしょう……! そんなに必死になるんなら、どうして僕たちだけで行かせたんですか?」

「佐伯リーダーは、お前らに期待していなかったんだよ。けど、こうして戻って来たら、色々取り調べるのは当然だろう?」

「だから、全部話したじゃないですか! モンスターと戦いながらひたすら西に進んで、新田さんがあんなことになって……いつの間にか遺跡に向かって歩いていた……それだけですよッ!」

 

 声を荒らげ、左右のこぶしを固めるユキトに梶浦は迷いをにじませたが、矢萩は眉間のしわを深め、いら立ちで目をいっそう尖らせた。

 

「矢萩大尉、彼の言っていることは本当なんじゃ……」

「どうかな……」

 

 腕組みを解いた矢萩はイジゲンポケットから出した日本刀・虎狼ころうを握り、ぎょっとする梶浦に目を滑らせ、手錠がはまった異形の右手を見下した。

 

「――こいつは、この醜悪な右手からどんどん人間じゃなくなっている。そんなヤツの言うことを簡単に信用はできないな……――」

 

 軍服姿がローテーブルの横に回ってユキトの鼻先に切っ先を突きつけ、唇で赤い下弦の月を作る。

 

「脅しじゃないぞ。星をひたすら追っていただけだとしても、何か気付いたことがあるはずだ」

「……だから、何も――」

 

 切っ先がすっと下がり、刃が右太ももにズグッと突き立てられる。うめき声を上げ、血の染みが広がる太ももを押さえる様を見ながら矢萩は手首をひねり、傷をえぐった。

 

「や、矢萩大尉……!」

「心配するな、梶浦。ポーションを使えば傷も衣服も元通り。大事にはならないさ。――」

 

 刀を引き抜いた矢萩は痛みに震えるスウェットパンツで刃の血を拭い、左手に出したポーションの蓋を外して傷にかけ、蛮行の跡を取りあえず消した。

 

「ほら、もう痛い思いはしたくないだろ? 言っておくが、ここは周りに何も無い不整地地帯のど真ん中だし、詰所にいるヤツらには多少声が聞こえても気にするなと言い含めてあるからな」

「……こんなこと、篠沢たちにもやっているのか……?」

「さあな。あっちはあっちのやり方でやっているんじゃないか? こっちはこっちのやり方でやらせてもらう。さ、正直に話せよ……!」

 

 醜く微笑し、矢萩は顔をそらした梶浦の横でうっすら汚れた切っ先を再び向けた。

Mov.42 青い鳥(2)

「……それで、どうしてこんな夜更けに僕らを呼び出したのですか? ここは、軍に見張られているんですよ?」

 

 白ローテーブルを挟んで鎌田は北倉と顔を見合わせ、並んだアーチ型窓に引かれた艶めくカーテンの向こうを気にして尻をもぞもぞさせた。羽根柄ソファに座る彼等オリジナルTシャツ姿の上座では、カーテンを背にしたツインテールの天使が扇情的な脚を組んでアームチェアにふんぞり返り、定番のロリータ・ワンピース姿をルルフパレス1階応接間天井のシャンデリアの光で燦然とさせていた。

 

「気合を入れるためよ。プラチナクラスのあなたたちに」

「気合ですかッ、ルルりんッッッ! 分ッかりましたッッ! どうぞやって下さいッッ! ビンタでもパンチでも思う存分ビシバシとォッッッ!」

「今日昼過ぎ、ユッキーたちが軍に連行されて来たでしょ」

 

 ヒートアップを無視してルルフは鎌田に振り、その後の動きはどうなっているのかと尋ねた。

 

「はい。軍にいるルルラーからの情報によれば、篠沢・エリサ・紗季と葉エリー、新田前リーダーは軍事務所――旧警備隊事務所地下留置場、斯波ユキトは不整地地帯にある自宅で取り調べを受けているそうです」

「黒の十字架について、何か得られたっぽい?」

「今のところ、これといった情報は得られていないようです。彼らの探索は無駄骨折りだったのかもしれませんね」

「まったく訳が分からないなッ。赤い星を目印にして旅を続けたんだろうにッ」

「謎なら、取りあえず置いておくわ。分からなければ誰も手にできないんだから。それよりも……また一騒動起きそう――っていうか、起こせそうなにおいがするのよね~ コリア・トンジョク離脱事件並み、あるいはそれ以上のがドッカーンと」

「あの事件並みの、ですかッッ?」

「そう。あのときは失敗だったわ。騒ぎに乗じて逃げ出していれば、こんな生活も終わりにできたのにさ。だから、今度はチャンスを逃さない。遺跡からさよならして、他のフェイス・スポットを見つけてそこに拠点を構えてやるわ。そのときが来たら、ツートップのあなたたちにはみんなをしっかりリードしてもらうわよ」

 

 レーストリムグローブをはめた手でググッと肘掛けをつかんで身を乗り出し、ルルフは鎌田と北倉を妖しく潤む双眸で交互に見つめた。チャームが瞳を通じて両名をさらに深くとりこにし、半開きになった口から熱くとろけた吐息を漏出ろうしゅつさせる。

 

「お、お任せ下さいっ! 僕たちルルラーは、ルルりんのために粉骨砕身働きますよっ!」

「そうですッッ! 一致団結して軍でも何でもやっつけてやりますよッッッ! うおおおおッッッ!」

 

 にんまりしてルルフはアームチェアの背もたれに寄りかかり、胸元にかかるブロンドの流れに指をゆったり泳がせた。大事に先立って呼び出し、恍惚に誘う芳しいフェロモン、天上のメロディさながらの甘い声、あがめずにはいられない麗姿をもっていっそうがんじがらめにしようというもくろみは、見事に果たされていた。

 

「――2人とも、これからもルルのためにハイパーに頑張ってねぇ~」

「もちろんです! ハイパープリティ、ルルりんっ!」

「ハイパープリティッッッ! ルルりんッッッ!」

 

 熱狂者たちが右手を高く挙げて敬礼したとき、玄関前で言い争う声が飛び込んで来る。見張りに立っているルルラーと誰かが押し問答をしているのだ。強引に玄関ドアを開けて踏み入る音に鎌田と北倉が腰を浮かすと、応接間に軍服を着たジョアンがずかずかと入って来た。

 

「シャ、シャルマッッ! 勝手に足を踏み入れるなんて無礼だぞッッッ!」

「そ、そうだ! 裏切り者の分際でっ!」

「Shit upッ!」

 

 いきり立つコンビを一喝し、ジョアンは胸を張って白い軍服を見せつけた。

 

「――ボクに手出しをしたら、公務執行妨害で引っ張るぞっ!」

 

 歯ぎしりする鎌田たちをふんと鼻で笑うと、ジョアンは悠然と座り続けているルルフを斜に見て結んだ唇をねじり、濃い眉をグッとひん曲げた。

 

「……見張りから不審な動きがあると聞いて来てみれば……こいつらとどういうwilesを考えてるんだ?」

「関係ないでしょ、ストーカー」

「ほっ、What?」

「追放された腹いせに寝返って、ルルの周りをうろつくキモいヤツ。顔を見るのさえハイパー不愉快なんだから、さっさとどっかに消えちゃってよ。シッシッ」

「そうだ! 僕たちはルルりんの顔を見に来ただけで、何もやましいことなんかしていない! 君はルルりんに相手にされたくて難癖を付けているんだろう? とことんみっともないなっ!」

「そうだッ、そうだッッ! 情けないヤツめッッ! 恥を知れッッッ!」

「ふふん、この場で土下座して泣いて謝るんなら許してあげることを考えなくもないけど? どうする、ストーカー?」

「……バっ、バカにするなッ!」

 

 褐色の顔が怒りでゆがみ、激する。

 

「――ボクは警告しに来たんだッ! もしおかしなことをしたら、こんなコミュなんかすぐに潰されるんだからなッ!」

「はいは~い。それじゃ、とっとと帰って。もう二度と顔を見せなくていいからね~」

「……キ、キミは、いつまでこんなことを続けるんだ……! 改心しようと思わないのかっ?」

「うるさいなあ! いつまでもごちゃごちゃ言ってると、ひどい目に遭わせるよ!」

「早く出て行け! 権威を笠に着るのもいい加減にしろっ!」

「ルルりんをいじめるヤツは、何者だろうと断じて許さないッッッ! ぶち殺してやるぞッッッ!」

 

 今にも飛びかからんばかりの鎌田と北倉にジョアンは後ずさり、胸をナイフでめった刺しにされたような顔でルルフをにらむと、応接間を飛び出して玄関から走り去った。

 

「まったくろくでもないヤツですね! あんなのがルルりんのそばにいたなんて悪夢ですよ!」

「ホントよ。今すぐにでもハーモニーを離脱したくなったわ」

「お気持ちは悶絶するほどよく分かりますッッ! 早いところ自由になりましょうッッッ!」

「そうだね……手を考えてみるから、カマックとロベーも頭をひねってよ。くれぐれも軍にこれ以上怪しまれないようにね」

「はいッ!」

「了解しましたッッ、ルルりんッッ!」

「うん。それじゃお開きにしよっか。監視の目があるからね」

 

 意気込む鎌田と北倉を帰らせ、ルルフは応接間で座り続けた。外には警備に当たっているルルラーがいるが、ルルフパレス内には彼女以外誰もいない。

 

「……ふん、マジでうっとうしいヤツ……! あたしの邪魔は誰にもさせない。もっともっともっともっとポイントを手に入れてやるんだから……!」

 

 地を出してひとりごち、ルルフは夢見る瞳をシャンデリアの光できらめかせていやらしく唇を緩めた。